小説

『水曜日の午後にシロツメクサが降る町』イワタツヨシ(『浦島太郎』)

 有毒な液体のこと――私は覚悟して、天井の隙間からいつ有毒な液体が入ってくるか待っていた――それに、ケイとよく遊んだ西の棟のこと――西の棟のちょうど真上が開いている。それから、放課後のこと。
 そこで私は思い出したように慌てて電話をかけた。天井が開いている。その向こう側に見える世界は、ただ黒く、よく分らなかった。ケイなら何か知っているだろうと思ったが、電話はいつまでも繋がらなかった。間もなく、天井は閉じ始めた。
 直方体の箱の外側に満ちている有毒な液体の話は何だったのか――翌日、町は「有毒な液体が世界のすべてを占めているわけではない。あのとき箱はそれらが存在しない位置に移動していた」と説明した。ただ、あの寒さは異常だった。
 天井が閉じた後、突然、二十三基の太陽が稼働し始めて町が明るくなった。まだ午前二時半だった。誤作動だろうか。一体、町はどうなってしまうのか、と思った。

 最後に別れたときの彼の表情がずっと頭から離れなかった。すでにあのとき、私は妙な胸騒ぎがしていた。確かに前触れを感じたのだ。あるいは、あのとき彼は酷く悲しい目をしていた。
 翌日、ケイは学校に登校していなかった。騒動から三日目に、行方不明になっていた彼の捜索願が出されて、捜査が始まり、それは半月ほどで打ち切られてしまった。とても狭い町なのだ。

 ケイが町から忽然と姿を消して、私もリビーもショックを受けていた。私は彼の親友だったし、彼女は彼の恋人だったからだ。
 捜索が打ち切られてしまった後に、私はリビーと会って二人で西の棟を登った。
 もちろんそこも重点的に捜索が行われた場所だったが。あの日、彼がもし外の世界へ出たならそこからとしか考えられなかった。私がそれを話すと、リビーは西の棟へ行ってみたい、と言った。体力がない彼女は階段を登るのに苦労した。私たちは階段の途中で何度も休憩し、何も見落とさないようにして、辺りを見回しながら少しずつ登った。私も息が切れて、苛々もした。西の棟の一体どこに秘密の部屋があるのか、と。
 そうしてリビーと二人で一日がかりで登った。

それから私たちは親友になったように幾度となく会った。二年ほどのうちに。



 その日、私はリビーと会った。水曜日で、私は部屋を出ていくときに、念のため、と思って子供の頃に使っていた青色の小さな傘を持って出かけた。

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