○選んだ作品:
『ケテルの羅針盤』柘榴木昴(『裸の王様』)
○選んだ理由:
本作で描かれるのは加速度的な変化である。露出という性癖は残念ながら一般的なものではない。がそれは読み手も同じであるからして、本作には、“露出の素人”である「読者」と「書き手」のより密な共同作業が求められる――はずだが、さらなる露出狂の登場で我々読者は我々は早々に置いてけぼりを食らうのだ。外界との断絶、またはそれ自体に意義を見出していた主人公が、ライバルとの邂逅で大きく心を動かされるさまは、原作で描かれた人間のエゴや欺瞞と通じている。crown(冠)を意味する「ケテル(kether)」だが、本作の主人公は語源を同じくするclown(道化師)のほうがよりお似合いなのかもしれない。