『滅びない布の話』
入江巽
(ゴーゴリ『外套』)
なめらかなものばかりすきなひと、強いものばかりすきなひと、そんなひとばかりで満ちた世相だから、なめらかで強いものをひとり、探さないといけない。俺が見つけたなめらかで強いものはスーツで、今日、四週間待って、やっとそれが仕立てあがった。たまらないよ、シビレる。
『こびとカウント』
木江恭
(『白雪姫』)
わたしの代わりに傷ついて死んでくれるしちにんのこびと。こびとがみんないなくなったら魔女に捕まってしまう。その日床に身を投げた最後のこびとを救ってくれたのは、こびとが見えないはずの勝ち組であるユキコ先輩だった。
『川せみになる』
菊武加庫
(『よだかの星』)
結婚して初めて実家を訪れた「私」は、一番会いたくない同級生と帰りのバスで乗り合わせる。二人には思い出したくない共通の過去があるが、彼女はそれをを話題にし始めるのだった。
『粗忽なふたり』
室市雅則
(古典落語『粗忽長屋』)
春から始めた就職活動が終わらず夏を迎えた大学生の『俺』は、今日も面接で失敗。出口の見えぬ日々と苛烈な暑さに頭が溶けそうになって帰る途中、野次馬たちが行き倒れの死体を囲んでいる所に出くわす。その死体が自分と同じ顔をしていたので、双子の弟と断定し、彼の家に本人を迎えに行く・・・
『玉梓』
末永政和
(織田作之助『雪の夜』)
雪の降る大晦日の晩、妻をなくした坂田は、ひとり別府の温泉宿に逗留していた。すれ違ったまま死に別れてしまった妻を思いながら、坂田が露天風呂で見つけたものは……。
『王様の選択』
室市雅則
(『裸の王様』)
王様は裸であることを自覚していた。裸でパレードをするのは避けたいが、すでに大勢の人々が王様の新しい衣装を一目見ようと集まってしまっている。さて王様、どうする。
『REBOOTER / リブーター』
結城紫雄
(『変身』カフカ)
ある朝目を覚ますと、“虫人間”=「仮面ライター」に変身してしまったニート兼声優オタク・大下カズト。超人的な力を手にしたカズトはとりあえずアルバイトを始めてみるのだが……
『ケテルの羅針盤』
柘榴木昴
(『裸の王様』)
誰にも迷惑をかけなければよいではないか。春先によく登場する、乙女たちにおのが竿を見せつける一般的な変質者とはわけが違う。そんなぶしつけはしない。裸に一枚コートをひっかけ、誰にも気づかれないままぶらりと散歩する。
『シンデレラの姉』
吉田舞
(『シンデレラ』)
スクールカースト上位者の杏音は、血のつながらない妹・詩絵良と仲良くなれない。嫌いなわけじゃないが、詩絵良の乙女チックで褒められたがりな性格を「痛い」と感じている。詩絵良は杏音の高校の学校祭に行きたがるが、杏音は来てほしくない。ダサい詩絵良を友達に見られたくないのだ。
『sleeping movie』
日吉仔郎
(『眠れる森の美女』)
小学四年生の尚子の両親は離婚している。尚子はある日の夜に母親から、もう半年近くのあいだ会っていない父親と会うよう告げられる。それは離婚時の取り決めらしい。尚子は積極的に会いたくもなかったのだが、取り決め通り、父親と半日出掛けることに。そして父親は尚子を映画館に連れて行くのだった。
『VR恋愛住宅』
柿沼雅美
(『恋愛曲線』)
私たちの世界から所謂昔の恋愛が無くなって60年くらいたつらしい。どんどんと減り続ける人口、ロボットに代わられる仕事、自然災害で健康な人間が失われていく現実、これらを考慮して対策がされた世界が今の私たちの時代だった。
『そらの瑕』
木江恭
(『王子と乞食』)
大道寺らに。ハワイ語でそらという意味の名前、裕福な家庭環境、理想的な両親、生まれつき何もかもを持っている可愛い彼女はスクールカーストの最上位、なのに何故か最下位のエミに一途な好意を寄せている。ある日エミは提案する、一晩だけおうちを交換しない?
*それぞれの小説はフィクションであり登場する人物、団体等名称は実在のものとは関係ありません。
*また、それぞれの小説内のいかなる主義・主張もブックショートとは無関係です。