『だいだらぼっちの色鉛筆』
骨谷そら
(『民話だいだらぼっち』)
マンションの中庭に突然、像が置かれた。名札に「だいだらぼっち」と書かれた像は、「私」に話しかけてきた。その声は、お金持ちの恋人に乗り換えるために振った元彼の声。しかしだいだらぼっちは、誰にでもなることができ、それゆえに誰でもない曖昧な存在だった。ある日、中庭が火事になり……
『長い道』
川瀬えいみ
(『万葉集3724番』)
三十年前の夏の終わりのある日、五歳の私を置いて、家を出ていった優しい母。母を遠くに連れ去る長い道を、いつまでも無言で見詰めていた父。二人の別れの理由は、もはや知りようがない。二人が天の火を燃やさなかったから、今の私の幸福はあるのかもしれない――。
『紫煙の向こう』
霜月透子
(『浦島太郎』)
バイト前に路地裏で一服していた祐介は、少年が男に絡まれているところに遭遇する。とっさに助ける祐介。少年・潤は祖母の家に遊びに行くところだった。成り行きで家に上げられ、もてなされることに。潤とすごすうちに、祐介はなにかがおかしいと感じ始める。
『推しの姫君』
まなお(『白雪姫』)
「白雪が可愛すぎて辛い……」今まで自分磨きに人生をかけてきたお妃は初めてできた推し、白雪姫への健全な推し活動に日々、勤しんでいました。そんなお妃にはある悩みがあります。それは、素直に自分の思いを伝えるのがとても苦手だということ。果たして、お妃の激重感情は白雪に伝わるのか。
『隣人のさくら』
柊きりこ
(『はなさかじいさん』)
山間の小さな農村で互いに静かに暮らす二夫婦。しかし春田夫妻が一匹の犬を飼い始めると、次々と幸運が起こり始める。それに苛立った秋山は嫌がらせを続けるが、妻が寝たきりになり、思いつめた秋山は犬を殺す。しかし寝たきりになった妻が春田家の桜を見て最期に微笑み、秋山は強く後悔を覚える。
『ららら』
さくらぎこう
(『かちかち山』)
1人暮らしの老人宅には詐欺電話がたびたびかかって来る。騙されたことはなかったが、ある日亡き妻の友人の孫だと名乗る若者が訪ねてきて借用書を見せられる。生前の妻の借金だった。1万円と少額だったのでその場で返済を済ませるが・・・。
『花』
宮沢早紀
(『唱歌「花」』)
同期入社の陶ちゃんは優秀でたくましく、河川敷で歌うくらい自由でいつもわたしは圧倒されている。陶ちゃんの海外転勤をきっかけに実は陶ちゃんと自分自身を比較していることに気づき、さみしさと嫉妬で苦しくなってしまうわたしだが、陶ちゃんの思いに気づくと、気持ちも変わっていくのだった。
『浦島家に伝わる玉手箱の呪い』
村木志乃介
(『浦島太郎』)
浦島太郎が竜宮城から持ち帰った玉手箱のその後の話。じつは玉手箱には呪いがかかっていた。太郎の子孫、玉太郎は玉手箱を開けた途端、顔の皮膚が変幻自在になる。玉太郎は変化する顔を使って、知り合った男と銀行強盗するのだが、分け前で揉めた末、男を殴り倒し、金を玉手箱に入れ、逃げ帰るのだが。