『とある夫婦とブランコ』
真銅ひろし
(『夢を買う』(新潟県))
53歳でお笑い芸人の健一は旧友から専門学校の『先生』をやらないかと誘われる。それは就職の誘いでもあった。健一は今自分が置かれている状況を考え、『お笑い』か『先生』かで悩む。
『かごめかごめ』
春野太郎
(『座敷わらしのはなし』(岩手県遠野))
遠野の子どもたちは宮沢憲治の時代にもあった「大道めぐり」ごっこをして遊びます。ある時、十人の子どもたちは回っているうちに十一人になりました。子どもたちは一人、変な「大人こども」が混ざっていることに気がつきますが、彼らは大人たちの心配をよそに、その男性と一緒に遊ぶのでした。
『三年寝ず太郎』
y.onoda
(『三年寝太郎』(山形県))
中学三年の太郎は思春期不眠症で三年眠っていない。近頃では一般的な病で、この眠らない時間を活用しようと深夜塾が作られた。太郎も通ったが、成績不振で転塾を勧められ、久しぶりに電車に乗って体験へ。電車は眠った人で溢れ、まるでゆりかごだった。太郎はそこで不眠症のゆめ子に出会い、二人で一緒に眠ることにする。
『エバーグリーン・ガール』
久遠静
(『櫻の樹の下には』)
大学の演劇部に所属するマキは、入院している先輩の病室を訪れる。先輩はマキにとって憧れの存在であった。桜のようにみんなから愛される存在になりたいと思っているマキは、友人のアヤや先輩との会話で桜にはない常緑樹(エバーグリーン)の魅力を知り、先輩から託された役目を果たす覚悟を決める。
『月桃の声』
久白志麻木
(『耳なし芳一』)
向島出身の青年、當木依は壇ノ浦に伝わる民話の主人公〈耳なし芳一〉の子孫であるといわれている。幼い頃から動物や植物たちと心を通わせる不思議な力を持っていた依は、やがてリュートを弾き語る旅の歌唄いとなった。そんな依の元へ、伊豆諸島の青ヶ島のある集落で唄ってほしいと依頼が入る。
『真夜中のメンコ大会』
鈴木和夫
(『地域の伝説。言い伝え(夜、墓でメンコの音がする)』(愛知県豊川市))
50年前の田舎町、ガキ大将のような友だちの弟が病死した。49日が終り納骨する日の夜、「弟がさびしがる」と言って友だちが頼みに来て夜遅くまで墓の前でメンコをやった。その思い出と地元に伝わる墓地の怪音の伝説をからめました。
『月の湖』
夏野雨
(『竹取物語×白雪姫』)
伯父が残したボストンバックの中から出てきたのは、ダムに関する大量のコレクションと未提出の婚姻届。会ったこともないその相手を探して辿り着いた先には…
『檸檬、その後』
小川葵
(『檸檬』(京都))
大正14年。京都の丸善書店で棚の画集が積み上げられ、一番上に檸檬が置かれていた。二年前、関東大震災で東京から京都の丸善に移った男性店員は、店主に怒鳴られながら画集を棚に戻し、懐に檸檬を入れるのだった。
『ひとつくらいは手を貸そう』
有栖れの
(『天狗の羽団扇』)
驕り高ぶった柔道部に日常を塗りつぶされている、とある学校に新しい教頭が赴任してくる。現状を受け入れるだけであった少年が、知らぬうちにほんの少し背を押されるお話。