小説

『とある夫婦とブランコ』真銅ひろし(『夢を買う』(新潟県))

 12月。
 世間がせわしなく動いている時に旧友の和也に呼び出された。そして喫茶店で聞いたその内容に私は戸惑った。
「先生?」
「そう。どう?」
 スーツを着た和也は胸ポケットから名刺を出してくる。そこには『JOINTO学院』と書いてある。
「今度さ、うちの専門学校で芸能部門を立ち上げる予定なんだ。中身は俳優、声優、タレント、それとお笑いもあるんだ。」
「それで、俺がお笑いを教えるの?」
「いや、健一に頼みたいのはその部門の常勤の先生。教える人は非常勤の講師。」
「・・・何かよく分かんないけど、何するの?」
「簡単に言えば運営かな。学生の管理、講師の管理、イベント運営、入学検討者への広報、その他諸々。」
 名刺の裏には、メディア部門、ゲーム部門など様々な部門が書かれている。常勤という事は『就職』する事になるのだろう。
「・・・。」
 凄くいい話ではあるが、なかなか即答できない自分がいる。目の前にあるコーヒーを一口飲む。
「最近、芸人の方はどうよ。」
 和也が話題を変えてきた。
「ん、まあ、なんとなくだな。」
「そうか。こっちも仕事で忙しくてさ、なかなかライブに行けなくて悪いな。」
「いいよ。そっちは大変そうだな。」
「もう53になるのに、まだ駆けずり回ってるよ。一応管理職なんだけどな。」
 和也は小さく苦笑する。
「まぁ少し考えてみてよ。悪い話じゃないと思うんだよね。」

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