小説

『とある夫婦とブランコ』真銅ひろし(『夢を買う』(新潟県))

 自分も荷物をまとめて外に出ると、妻が待っていた。
「お疲れ様。」
「ごめん。おまたせ。」
 いつもの光景。劇場の周りには妻しかいない。私を待ってる出待ちの女の子なんてほとんどいない。たまに男が「面白かったです。」と声をかけてきてくれるぐらいだ。
「相変わらず人気ないわね。」
「うるさいよ。」
 これもいつもの会話で、私と妻は駅まで歩きだした。
「ちょっと、コーヒー買う。」
 そう言って私は通りかかった自販機にお金を入れ、ホットの缶コーヒーを買う。
「私も欲しい。紅茶がいい。」
 後ろで妻が催促するので紅茶も買う。12月の外はやはり寒い。
 電車にゆられ、自宅の最寄駅に到着する。特に会話もなく歩き進める。ライブの感想はこちらが聞かない限り、妻は答えない。これもいつもの事。ただ、聞くと正直に答えてくるので怖くて聞けないというのもある。
「ねえ、決まった?」
 無言だった妻が聞いてくる。すぐに何か分からなかった。
「なにが?」
「先生するかどうか。」
「・・・ああ、まだ。」
「そっか。」

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