小説

『エバーグリーン・ガール』久遠静(『櫻の樹の下には』)

「もし私が死んだらさ、桜の樹の下に埋めてくれる?」
 先輩はそう言って、静かに地面に倒れていった。
 桜の花びらが宙を舞っていた。
 天井から赤い幕がゆっくりと降りてくる。
 徐々に先輩の姿が観客から見えなくなった。
 舞台の幕が降りきってからもしばらくの間、会場には拍手が鳴り響いていた。

 ***

「先輩、体調はどうですか?」
 病室の扉を開けると、窓から差し込む光が先輩の白く滑らかな肌を照らしていた。それは、儚く溶けてしまう雪のようであった。
 先日、先輩は大学の学園祭で脚本と主演を務める舞台の公演後、体調を崩して入院することになった。急な出来事であった。病室のベッドの横には、お見舞いのフルーツや花束がいくつも置かれていた。それは先輩が多くの人から慕われていることを表すのに十分なほどであった。
 先輩は私より二つ上で、同じ女子高の演劇部に所属していた時から私は先輩を尊敬していた。演技の上手さはもちろんのこと、容姿端麗で勤勉な先輩はみんなから人気があった。私も先輩の後を追って同じ地元の大学に入った。受験が終わり、久しぶりに先輩に会うと先輩は私の入学を自分のことのように喜び、もしよかったら大学でも演劇を一緒にやろうと誘ってくれた。正直、私は演技が上手いわけでも、そこまで演技が好きなわけでもなかったが、少しでも先輩の傍にいることができるならと思い、大学の演劇部に入ることにした。
「あらマキちゃん。今日も来てくれたのね。稽古帰り?」
 先輩に少しでも早く会いに行くために、稽古終わりにシャワーも浴びず、直接ここに来た。自分の体を匂ったが、服は着替えたので多分大丈夫だ。
「はい、今日の稽古も無事終わりました」
「おつかれさま」

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