小説

『真夜中のメンコ大会』鈴木和夫(『地域の伝説。言い伝え(夜、墓でメンコの音がする)』(愛知県豊川市))

 私が子どもの頃、家のまわりは舗装されない凸凹だらけの道ばかりだった。雨が降ると水たまりが出来て、それが遊び場になったりした。今より子どもの数が多くて、近所だけで十人くらいの遊び仲間が出来ていた。
 小林マコト君は私より一つ上で、まあよく言うガキ大将って感じだった。とにかくケンカが強くて、大人に対しても気に入らないとくってかかったりしていた。私は彼が泣いているのを見たことがなかった。

 彼には二つ下の弟がいたのだけれど、四才のときに病気で亡くなった。夏休みになるすぐ前だったと思う。

 お通夜と葬式は、マコト君の家であげた。昔の家は入り口が引き戸で広く、中も襖を外せば大きな部屋になるからそこでやることになった。
 遊びなれたマコト君の家がびっくりするほど広くなっていて、一番奥に白い菊がいっぱい飾ってあった。真ん中にマコト君の弟の写真が笑っている。祭壇の横には果物を盛った籠が並んでいて、その横に隠れるようにマコト君が坐っていた。膝の上で両手をグーにして顔をしかめ、唇をかみしめていた。
「マコト君。これ」
 私は母親から預かって来た封筒を出した。いっしょに遊んでいた子たちの親が少しずつ出したお金を母親が封筒に入れてくれたのだ。マコト君は顔を上げて私を見た。真っ赤な目から、大粒の涙がいくつもこぼれた。そのまま瞬きもしない。私は近づいて封筒を渡そうとした。なんだかいつもの癖で殴られたりするかと怖くなった。
「ありがとうございます。栄(弟の名前)が喜びます」

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