小説

『真夜中のメンコ大会』鈴木和夫(『地域の伝説。言い伝え(夜、墓でメンコの音がする)』(愛知県豊川市))

 彼はゆっくりと両手を差し出して、小さな声で言った。大人みたいな言い方になんだかびっくりして、こっちが悪いことをしたような気さえした。
「すみません。あのー。みんなで出したので」
 私が固くなると、マコト君ははじめて頬をあげた。
「ありがとうな。ほんとにありがとうな」
 そう言ってから、右手に封筒を持ちかえて左手で涙をぬぐった。

 葬式が終わって遊びに行くと、マコト君はいつもの「怖いマコト君」にもどっていた。メンコで遊ぶことが多かったんだけど、マコト君はメンコも強かった。最初、みんなで一枚ずつ出してメンコの山を作り、上から2番目の札を裏返しておく。これがアタリ札になる。一人ずつメンコを投げていってアタリ札が出したものがその山をもらっていくのがルールだった。
 マコト君はいつも菓子の空き箱を持っていて、そこにメンコを入れていたのけれどすぐにメンコでいっぱいになった。

 マコト君の弟が亡くなって一週間ほどして雨が降った。外で遊べなくなってマコト君に家で遊ぶことになった。葬式以来はじめて上がるマコト君の家だった。玄関を開けると線香の匂いがした。
「あっ。お寺の匂いだ」
 一人がからかうように言った。今と違って昔の家は玄関を入るとその家独特の匂いがした。古い木の匂いだったり、人いきれのような匂いだったり、場合によってはトイレの匂いがする家もあった。
 私はヒヤッとした。もしかしたらマコト君が怒るかも知れないと思ったのだ。気に入らないことがあると、口より手が早いようなマコト君だ。葬式で泣いていた彼の顔が目に浮かぶ。
「お寺の匂いかあ。そうかなあ」
 マコト君はなぜか一瞬困ったような顔をしたけれど、すぐに笑顔になった。
「今日もなあ、お寺の坊さんが来たんだ。でもクサイよりはいいだろ」
 そう言って、私達を上がらせてくれた。一番奥の部屋。この前、祭壇があったところに小さな机が置いてあって白い箱があった。その後ろにマコト君の弟の写真が飾ってある。

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