小説

『真夜中のメンコ大会』鈴木和夫(『地域の伝説。言い伝え(夜、墓でメンコの音がする)』(愛知県豊川市))

「俺といっしょにメンコやってください。一生のお願いです」
 返事も出来ない私の顔をマコト君はじっと見た。私は怖くてとにかくうなずいた。それを見て、マコト君は踵を返して歩き出した。けっこう早足だった。私はわけも分からず後を追った。
 街の外れのお寺に着いた。墓地の中に入って行く。マコト君が立ち止ったのは真新しい墓石の前だった。新しい花と線香が何本もあげてある。新しい卒塔婆も立っていた。
「ここで、おれとメンコをしてください。お願いします。今日は勝っても負けても、メンコは全部上げます。いっしょにやってください」
 マコト君は言いながら、勝手にメンコを積んでいった。そして、私に何枚か渡した。
 何も言えない私にマコト君は絞り出すような声を出した。
「栄(マコト君の弟)が死んじゃって。悲しかったけどな。昨日までは骨が家にあったんだよ。ほら、写真の前に置いてあった白い箱。あの中に栄いたんだよ。だけどな、お墓作ったからな、栄、この中に入っちゃったんだよ。なあ、栄ってまだ四才なんだぜ。幼稚園行くのも、一人じゃ怖いって毎日泣いてたんだぜ。怖がりのさみしがりなんだぜ。こんな暗いところでさあ、あいつ、今日から一人なんだぜ。そんなの悲しいに決まってんじゃん。なあ、俺、ずっとここにいてやりたいよ」
 マコト君は私の肩を掴んで大声で泣いた。私は何も言えなかった。
「いいよ。メンコやろうよ」
 少し間をおいて、それだけ言えた。そして、ふたりでメンコをやった。すぐに日は落ちてあたりは暗くなってくる。汗が出て、やぶ蚊が身体に寄って来てもメンコをやり続けた。真っ暗な空にメンコのパーンという音が響く。マコト君の鼻をすする音がする。
 どのくらい時間が経っただろう。

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