『毒に蝕まれたオウジサマ』
永野桜
(『白雪姫』)
死体に好意を寄せる女子高校生、皇子蓮。ある日彼女はクラスメイトの白井から告白され、それを断る。すると白井は突然「何故自分を殺したのか」と皇子に問う。その言葉は皇子ではなく、皇子の前世の記憶に問いかけるもので……。
『生と彼』
和織
(『死後』『彼』)
死んだ男は、いつのまにか「彼」と一緒に街を歩いていた。男は「彼」をよく知っている筈なのに、その若い美男子が誰なのか、全く思い出せない。けれど「彼」が死んでいると言うのなら、なるほど自分は死んでいるのだと、妙に納得してしまう。
『境界線に乗って』
眞山マサハル
(『銀河鉄道の夜』)
勤め先の倒産で失業した俺は、夏祭りを口実に昼から飲んでいた。泥酔しつつも電車に乗り込むが、それは存在しない路線の実在しない列車だった。ボックス席の向かいに座ったのは、学生時代の自分。これから登山に行くという。彼は言った。「助かったお前がいる世界と、死んだ俺がいる世界がある」
『ひびわれたゆび』
高野由宇
(『炭坑節(福岡県民謡)』)
配達業で食べている男は、あっという間に過ぎて行った一日の終わりに満月に気付いた。あまりに綺麗で、つい別れた昔の女に電話をかける。月を見上げながら、手を伸ばす。でもやっぱり、届かない。
『鬼男』
高野由宇
(『鬼娘(津軽民話)』)
ゲイである自分に苦悩する少年は初めて自分以外のゲイの青年と出会う。距離を近づけようとするが上手くいかず挫けてしまう。一方青年は夜の丘で、自分の町の光や、大きいはずなのに小さく見えるトーキョーの光を見比べ、全て同じ光なのだと、過去や周りにこだわっていた自分に気付く。
『松明に込めた願い』
吉村史年
(『マッチ売りの少女』)
ヴィレムは、溜めていた金をピーテルに奪われた。困っている所に木こりと出会い、マッチ売りの少女の話の元となった神聖な木の枝を譲り受ける。ヴィレムはそれで松明を作り、試しに火を点けてみると金貨が出てきた。全ての松明に火を点けたヴィレムは孫娘の学費を作り、満足して炎に包まれていった。
『フォールフォワードで行こう』
もりまりこ
(『桃太郎』)
桃さんは「おダンゴバー」の店長さん。俺、猿元は大型電気店の4K画面で「夜ワイ」をぼんやりみていたら通りがかりのしゃきっとした男の人犬山さんに声を掛けられた。「おダンゴバー」なんか来そうですねって爽やかに。営業マンかなって思ってたら案の定究極の営業マンだった。なにも知らない俺猿元は、「ダンゴバー」で雉田さんとも出逢うことになる。
『妾になった男』
和織
(『青鬼の褌を洗う女』)
一年に一度か二度、登は僕を呼び出す。そういう関係が、もう十年以上も続いている。それだけ聞けば何か特別な関係かと思われそうなものだか、実際には全然違う。少なくとも、彼が僕を大切に扱ったことなんて、ただの一度もない。だって登は、大切にしなければならないようなものには、絶対に手を出さないからだ。
『万死に一生の夢』
文城マミ
(『死神の名付け親』)
ある夜、自殺を決意したフジオの元に死神が現れる。死神は自殺をするなら余命僅かの人々に自分の寿命を分けたらどうかと提案する。寿命を分ける相手を探していると、花屋で働く余命半年の女性と出会う。どんな女性か気になり接触を試みたフジオだが、ひょんなことからその花屋で働くことになる。