『白い手』
霜月透子
(『人魚姫』)
岬の下の磯には誰も近づかない。海から伸びるいくつもの白い手が招くからだ。その手に誘われた者は帰ってこないという。だから人々は磯に近づかないし、私もまた岬から見下ろすだけで、磯に下りたことはなかった。
『さらば行け、マツコ!』
ノリ・ケンゾウ
(『めくら草紙』太宰治)
我々読者がこの題を読んで始めに想起することは、〈マツコ〉なる人物が、クライマックスか、あるいはその途中でも冒頭部分でも構わないのだが、私たちが知りえない(あくまでこの時点では)所以を持ってどこか遠くに旅立つことを示唆しているに違いないということである。
『彼は昔の彼ならず』
ノリ・ケンゾウ
(『彼は昔の彼ならず』太宰治)
でもそれもあれもこれもなにもかも、もう何年も前の話。
『everything i wanted』
平大典
(『ドリアン・グレイの肖像』オスカー・ワイルド)
美術室で描き始めた幼馴染であるタカシの肖像画。実物よりも美形に描いてしまった私は、 タカシにその絵を見せられずにいたが、ある変化が起きた。タカシに訪れたその変化を、私は愉しむようになっていったが……。
『ロングホープ』
田中夏草
(『うさぎとかめ』)
同じクラスの完璧なカップルを羨望と嫉妬の眼差しで観察している羽田香織は、ある日、学校の帰り道に寄った図書館で、それまで存在すら知らなかった藤島大地という男子生徒と交流する機会を持つ。それ以来、香織にある変化が訪れる。
『Don’t eat me?』
鍛冶優鶴子
(『黄泉平坂の話』『古事記』)
妻を交通事故で亡くした男は妻のいない日々に耐えきれず、人里離れた山奥にある彼女の故郷へ向かう。彼女を偲んでやってきた小さな村だったが、そこには死んだ人を弔うための奇妙な風習があり……?死んだ人との別れと弔いをめぐる物語。
『例えば1枚の絵のように』
菊武加庫
(『雁』)
20年も前のことだ。ハスミくんという美しい同級生がいた。ある大雨の日、友人の怜奈が傘を貸したことがきっかけで、彼女に思いを寄せるようになる。だが、小さな偶然が重なり、言葉も交わせずに彼はいなくなった。
『トゲトトゲ』
平大典
(『一寸法師』『いばら姫』)
わたしは、バンドでギターを担当しているタケルと付き合っていた。友人と会話していると、タケルにはよくない噂があるという話を聞いてしまって……。
『ワタシとソラと』
藤元裕貴
(『わたしと小鳥とすずと』金子みすゞ)
五年前に亡くなった母を悼み、三姉妹は毎年母の誕生日に食事会を開いている。子育てに悩む長女の私は、母との思い出話から、忘れていた母の言葉を思い出す。