自分が周りとはずれていると気がついたのは、中学生になってすぐのことだった。母とサスペンスドラマを見たり、友人とホラー映画を見に行ったりすると、私は必ずといって良いほど死体に釘付けになるのだ。
永遠の眠りについた彼らは、周りの人間に喜怒哀楽の様々な感情を植え付ける。青白い肌に伝う、鮮やかな鮮血。ついさっきまで動いていた人間は、まるで糸の切れた操り人形のようにピクリとも動かなくなる。死を強く象徴させ、自分達が思っている以上に命は儚いものだと教えられる。私は、そんな死体を眺めるのが好きだ
とは言っても、ドラマも映画も所詮はフィクションだ。俳優が演技やメイクを駆使して、死体を演じているだけ。当たり前だが、生まれてから本物の人間の死体を見たことは一度もない。
だからこそ、異常な自分自身を恐れながらも私は願ってしまうのだ。この平和な日常を崩してくれるような惨劇を。登校中に連続通り魔でも現れればいい、校内で飛び降り自殺でも起きればいい。住んでるアパートが全焼……はダメだな。火だるまになった死体は人間の原型を留めていないというし、真っ黒になったそれは美しくない。ついでに私の住む場所がなくなるのは困る。
「蓮、またわっるい顔してるよ~」
横から聞こえた声で、窓の外を見ながら妄想の青空へ飛んでいた意識が戻ってくる。猫背な教師が前の席の生徒にプリントを配っているのを見て、自分が小テストを受けていたことを思い出す。
高校生になって、急激に難しくなった数学。一学期の期末テストは赤点ギリギリで、集中して授業を受けようと先日決めたばかりなのに。
「今度はど~んなグロテスクな妄想してたの?」
「……火だるまは嫌だなって」
「火だるま⁉ 物騒過ぎる……」
右隣の席に座る小野は長いポニーテールを揺らして身震いをする。
小野璃子。彼女とは小学生からの付き合いで、私の妄想癖や趣味を知る唯一の友人だ。小野は私の趣味を気味悪がりはするが、からかって言いふらしたりはしない。
「隣と丸つけだって。ほら、早く交換しよ」
小野は空欄だらけの解答用紙をひらひらさせ、こちらの解答用紙を早く寄越すように急かす。机の上の解答用紙を渡すと、小野は解答用紙の上に小さなメモ用紙を添えてこちらに差し出す。メモ用紙は二つに折られていて、上に向けられた面には癖のある手書きの字で「皇寺さんへ」と書かれている。
戸惑いながら解答用紙とメモ用紙を受け取ると、小野はぐいっと顔を私の耳元に寄せて囁く。
「白井くんから」
白井?
小野の右斜め前の席を見ると、白井が目だけを動かしてチラチラとこちらを見ている。口をギュッと結んで、落ち着かない様子で何度も何度も。