『キョウ子さんとだんご』田中かほり
私が薬剤師として介護施設の所属調剤部に従事していた頃、忘れられない女性がいます。仮にキョウ子さんと呼ばせて頂きます。 キョウ子さんと初めて出会った時、キョウ子さんは他の入居者さんと交わる事もなく、セルロイドの人形を両 […]
『在りし日とこれから』関乃縁
そよぐ薫風が運ぶ心地よさに、少しばかりの微睡を覚える。いまや娘も成人を迎え、我が家には静かな時間だけが溢れている。 「寒くないかい?」 私の問いかけに妻は微笑み、 「ええ、大丈夫ですよ」 と少し他人行儀な言葉を綴る […]
『合わない帳尻』村田謙一郎
「またそうやって、都合悪くなったらすぐ外す」 と言って、母は祖父をにらみつけた。手に補聴器を持った祖父は、涼しい顔をして窓から外を見ている。 母の言うことには最近はいつもこうらしい。祖母が亡くなり、一人での暮らしを心配 […]
『淡い恋心』金谷祥枝
今年95歳になる美恵子さんは、3年前まで一人で生活していました。料理が得意だった美恵子さんでしたが、調理中、煮物を作っている事を忘れて鍋を焦がすことが増え、物忘れが多くなり、心配した親族が同居を提案しましたが、本人の希 […]
『ばあちゃんと旅人』宮沢早紀
「今日はヒドかったわ。私と花さん間違えるんだよ? 週三で世話しにくる自分の娘と何もしない長男の嫁を間違えるかな、普通」 堰を切ったように母さんの介護の愚痴が始まった。俺も親父もいつも通り聞き役に徹する。 「駿のことは分 […]
『彼と彼の父』室市雅則
これは彼から聞いた話。互いに芋焼酎を片手にしていたので、事実とは違う部分もあるかもしれない。でも大筋では合っていると思う。 彼は京都の先斗町にあるバーの店主である。僕がそこを知ったのは、十五年程前。彼は三十代で、僕は […]
『26歳と80歳、ともに駆け抜ける青春の日々』河合はつね
「おはよう。今朝の体調はどう? 暑くて体調崩してない?」 わたしの友達は、今年で80歳になる女性です。福祉のボランティア活動を通して出会いました。いつも、わたしのことを細かく気にかけてくれます。親切な人で、自分の友達や家 […]
『祖父への旅路』源孝一
私は「認知症の人」が苦手だった。きっかけは定かではない。だが、物心ついた時には既に「何もわからなくなる病気」、「人が変わってしまう」といった認識があり、いつのまにか 「認知症の人は怖い人だ」と思い込んでいた。そんな時、 […]
『天国のおじいちゃんへ』沖村里枝
私の曽祖父は3年間在宅介護の末、十六年前に他界した。 当時、私は高校生で、大腿骨骨折を機に寝たきり生活、そして、食事も少量となり、ついに経管栄養をしている姿がとても怖かった。 そして、大好きだった曽祖父が認知症の影響から […]
『父のパジャマ』平賀緑
六年前、父が亡くなったその日から、母の様子に変化が表れ、その後、認知症と診断された。年々症状は進んでいるが、なんとか一人で暮らしている。 娘の私は、時々家事を手伝う為に通っている。そんなある冬の日、母のパジャマを洗濯 […]
『雲のなかで手をつなごう』間詰ちひろ
「だぁれ? 分かんないねえ」 そういってキョトンと首をかしげる。その無垢な眼差しは何を見つめているのだろうか。 「おばあちゃん、わたし。孫の、か、よ、こ!」 おばあちゃんとの会話は、いつだって自己紹介から始まる。 […]
『つらさを毒舌漫才にかえて』飯森美代子
母は76歳のとき脳梗塞に倒れ、左半身まひになった。当時まだ介護保険制度はなく、33歳の私は仕事を辞め、在宅で母の介護を始めた。介護生活は17年に及び、6年前にみとった。 私は小学6年のときから母と二人暮らしだった。私 […]