「おはよう。今朝の体調はどう? 暑くて体調崩してない?」
わたしの友達は、今年で80歳になる女性です。福祉のボランティア活動を通して出会いました。いつも、わたしのことを細かく気にかけてくれます。親切な人で、自分の友達や家族のお世話をすることも。
彼女の夫は、20年前に亡くなりました。
普段は、近所の老人ホームで他の高齢者と一緒に暮らしています。
「ありがとう、大丈夫!今日の体調は普通だよ」
その言葉に、ニコッと微笑んで、返事をします。普通、逆なんじゃない?と思うかもしれませんが、これがわたしたちの日常です。
認知症のある人は、誰かが手助けをしないといけない。そんなふうに思っている方も多いかと思いますが、それは大きな誤解です。手助けをしてくれることもあるのです。
わたしには、発達障がいがあります。生活や体調のことを気にかけてくれるひとがいるのは、すごくありがたいです。
「わたしはむかし、愛媛に住んでいてねえ。あそこは、坊っちゃん団子が有名なんだ」
彼女は、よく自分が住んでいたところの話をしてくれます。26年しか生きていない、わたしにとっては、たいへん興味深い話です。
「そうなんだ。一度は行ってみたいなあ。 坊っちゃん団子って、どんな味がするの?」
コーヒーを飲みながら、ゆっくり耳を傾けて話を聴きます。
「甘くてふんわり、落ち着いた味がするよ。今度、孫に頼んで持ってくるね」と、嬉しい言葉が。わたしは、ひととのコミュニケーションが苦手です。
冗談や皮肉、お世辞をそのまま受け取ってしまいます。悪口や噂話も苦手です。それが原因で、相手とトラブルになることも。でも彼女が話すことは、住んでいたところだったり、食べ物の話だったりで、とても和やかです。だから、安心して話をすることができます。彼女に会うまで、ひとりで誰とも話さず家で過ごすことが多かったわたしですが、
出会ってからは、少しずつ口数が増えました。前よりも、明るく楽しい気持ちになり、
笑顔を浮かべるように。自分の世界に閉じこもっていた頃とは違い、視野も大きく広がりました。彼女と出会って、本当に良かったです。
そんなわたしたちはいま、禁断の三角関係に悩んでいます。26歳のわたしの友達の男の子を、ふたりとも好きになってしまったのです。彼女は、ファッションの研究、メイクの勉 強、ヘアアイロンで巻き髪、可愛くなるために日々がんばっています。見た目はどんどん若返り、80歳ではなく40歳くらいに見えます。わたしも負けじと、ファッションを磨き、メイクをし、美容院で髪を茶色に染め、彼女に対抗しています。意中の彼に、どっちが好きか尋ねると「他に好きな女の子がいる」という悲しい返事が。
でも、勝負はまだまだ、これから。ひょっとしたら、どちらかを好きになるかもしれません。
「禁断の恋の行方、いったいどうなっちゃうんだろう?」
と密かに気になる毎日。恋のライバルができて、毎日が新鮮です。
時には、一緒にお仕事をすることも。彼女は、ハンドメイド素材で手作りのシュシュを作ります。わたしはそれをスマホを使って、フリマアプリで出品します。毎週土曜日に彼女の家に行き、朝の9時から夕方の16時までお仕事をします。利益は、一日に5千円。一日家にいて5千円も稼ぐことができるのだから、すごいなあと思います。これからも、共同でお仕事を続けていく予定です。ずっとずっと続く、わたしたちの晴れやかな青春の日々。雲一つない蒼い空のもと、どこまでもどこまでも軽やかに駆けてゆきたいです。同じ時代をともに生きる頼もしいパートナーの手を握って。