小説

『舌を切る』本間海鳴(『舌切り雀』)

十九歳、夏。イヤホンで遮っているのは蝉の声ではなく、後ろにあるデカいコインゲームのBGMと、そのコインゲームに興じているおじさんの舌打ちだ。いい歳して、毎日毎日コインゲームなんかやって、人生楽しいんだろうか。まあ、毎日毎日このゲーセンに通って、欲しくもないぬいぐるみをクレーンゲームで取ってる私が言えたことじゃないけど。

「……懲りないね、あんた」
ファミレスのソファ席にずらりと並んだぬいぐるみを見て、美玲は呆れた顔になった。
「どれでも持ってっていいよ。私要らないし」
「要らないんだったら取るのやめなよ」
「持って行かないんだったら、メルカリで売るから置いといて」
ジンジャーエールを飲みながら私は言った。美玲はぬいぐるみをかき分けて、そのど真ん中に隙間を作り、座った。私のちょうど向かい。
「もう炭酸飲めるんだ」
美玲はメニュー表を眺めながらそう言った。私は一週間前に、自分で舌にニードルを刺してピアスを開けた。セルフで乱暴に開けたもんだから、しばらく血が止まらなくて、三日間はご飯も食べられなかった。
「もう平気」
私は、べ、と舌を美玲に見せた。美玲はそれをちらりと見て、ふうん、と興味なさそうに返事して、店員呼び出しボタンを押した。
「懲りないね、あんた」

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