小説

『舌を切る』本間海鳴(『舌切り雀』)

美玲は、今度は私のピアスに向かってそう言った。美玲の耳には、ピアスの一つも開いていない。
「あのね、美玲」私はもうほとんど氷になったジンジャーエールをストローでかき混ぜながら言った。「別れた」
「だろうと思った」
美玲はそう言うと、やってきた店員にチョコバナナパフェを注文した。店員は私が置いたぬいぐるみをじろじろ見て、去っていった。欲しいなら言えばいいのに。全部だってあげていい。
「言っとくけどね、私はあんたのそういうところクソだと思ってるから」
美玲は、別れたと言った私をまともに見て、そう言った。
私も、自分のことはクソだと思っている。美玲の言う通りだ。
私は、『友達の彼氏』しか好きになれなかった。小学校の頃からだから、もう治らないんだと思う。小学六年生のとき、明日花ちゃんにできた初めての彼氏を奪った。明日香ちゃんが優馬くんに告白した次の日、掃除の時間に私は優馬くんにキスをした。優馬くんは明日花ちゃんに申し訳ないと思ったらしくて、明日花ちゃんをふった。だから、優馬くんは私がもらった。中学一年生のときには香織の彼氏を、中学三年生で奈緒と春香の彼氏を、高校二年生で藤原さんと夏凛と萌、高校三年生で重森さん、卒業してからもバイト先の先輩の彼氏を五人奪った。そんなことばかりやってたから、私はどこのバイトも長続きしなかった。同じくらい、どの彼氏とも長くは続かなかった。クレーンゲームと同じだ。手に入れるまでが一番楽しくて、手に入ってしまえばもうどうだっていい。
「でも、クソだと思ってても、美玲は私とご飯食べてくれるんだよねー」

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