小説

『ナビの恩返し』戎屋東(『鶴の恩返し』(全国))

 明日は、滅多に廻ってくることがない資源ごみ回収の当番になっていた。それなのに、
「ええー、明日出張って冗談だろ、紬」
「私は仕事です。頑張ってね、翔くん。何年も住んでいるんだから、やる事ぐらい分かっているわよね」
 紬は、突っ慳貪な口調でそう言った。
 それも仕方ない。紬に任せっきりで、こんな当番があることすら知らなった僕が悪い。それに、突然会社を辞めてから、紬との仲がギクシャクしているから尚更だった。
「ほら、明日までに読んでおいた方が良いんじゃない」
 そう言って紬は『資源ごみの出し方』というリーフレットを僕に渡した。

翌朝、僕は管理人と一緒にマンションのごみステーションにいた。そして、一夜漬けで覚えた分別方法を思い出しながら、色分けされたコンテナーを覗き込んでいた。
「なんだこれ」
 どのコンテナーにも、パッと見ただけで『これは駄目だろう』という物が入っていた。
「これ、酷いですね」
「そうですか。いつも、こんなもんですよ」
 管理人は、慣れたもので、回収できない物を別のコンテナに手際よく移していった。
「まだ使えそうな物もありますけど、これ、どうなっちゃうんですか」
「有料で引き取ってもらうんです。最後は破砕するんでしょうね」
 そう言って、管理人はコンテナーから箱を一つ取り出した。箱には『Car NAVI』と書かれていた。
「これなんて新品みたいですけどね」

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