小説

『山の神さま』原田恵名(『山の神さま』(岐阜県恵那市山岡町))

小さな村の人々は、貧しさはあれど幸せだった。
この村では、皆が平等に貧しかったから助け合い、お互いを思いやって生きてきたのだ。
豊かな山に囲まれているおかげで、キノコや木の実、時には獣など山の幸に恵まれた。

村から山への入り口には、小さい祠がある。
誰が作ったのかは分からない。
一番の年寄りが、「子どもの頃からずっとある」と話をしているのだから、古いものなのだろう。
ただ、その祠はよく手入れをされており、村人たちが大切にしていることは一目瞭然である。

人々は、山に入る時にはその祠に向かって頭を下げ、帰る時には「こんな恵みがありました。ありがとうございます」そうお礼を伝えるのが日課であった。

村人たちは、山を敬っていた。
しかし、その反面、大きな恐怖心を抱いていたのも事実である。

どこの家でも、子どもたちに聞かせる話があった。
それは、「山のかみさま」のことである。

「山はたくさんの恵みを私たちに授けてくださる。
 しかし、その感謝の心を忘れると、たちまち山は人間を見放すのだ。
 山は親や年長者以上に敬うべき存在だ。
 山には神がおわすのだ。絶対に逆らってはいけない。」

けれど、子どもの中には、冒険心たくましく、言いつけを破って山にいたずらする者がいるのは当然である。しかし、山を軽んじた子どもは、神隠しにあったり、病にかかったり、必ず罰が降った。時には、村全体への罰のように凶作になったり、雨が降らなかったりすることもある。

だからこそ、大人たちは、子どもに厳しく言って聞かせるのだ。

「山を何よりも敬え。軽んじるな。」と。
子どもが山を軽んじた時には、親も見せしめとして罰した。
こうやって、ずっと幸せな村を守り続けてきたのである。

1 2 3 4 5 6