小説

『ナビの恩返し』戎屋東(『鶴の恩返し』(全国))

 そう言って、管理人は大きさの割にズシリと重い箱を僕に渡した。箱を開けてみると、そこには小型テレビのような物が入っていた。
「これ何ですか」
「多分、初期のカーナビですよ」
「カーナビ、これが」
「そう、ブラウン管のカーナビ。使われることなく捨てられたんだね、可哀想に。きっと粉々にされちゃうんだよ」
「管理人さん、これ貰っていいですか」
「いいですけど、次のごみ収集日に捨てないでくださいよ」
 この時の僕は、このカーナビに妙に引かれていた。

 資源ごみの引き渡しが終わると、僕は箱を抱えて部屋に戻った。早速、ネットで調べてみると、これは確かにカーナビだった。
 この古いナビの虜になった僕は、部品に付いた埃を落とし、ドキドキしながら電源スイッチを押してみた。すると、ポーンという音がし、しばらくしてメーカーのロゴが表示された。
『すごい、生きている』
 こうなると、俄然、車に取り付けてみたくなる。僕は、あちこち電話し、このナビを取り付けることができないか聞いた。8件目の電話で、
「自信は無いけど、それでもよければ持ってきて」
 そう言われた。
 翌日、予約した時間に出かけると、小ぢんまりとしたお店の入り口で、年配のおじさんが待っていてくれた。僕がカーナビの入った箱を手渡すと、
「懐かしいな、よくこんな物見つけてきたね。貴方の車だったら、多分取り付けることができると思いますよ」

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