小説

『チューリップの花が』太田純平(『大工と鬼六(岩手県)』)

「ハイハイみんな聞いて~」
 と先生が手を叩く。修学旅行の肝試しで誰とペアを組むか、明日のホームルームで決めるというのだ。
「男子と女子、二人で一組です。明日までに決まらなかった子はクジ引きになります」
 先生の言葉にクラスが騒然となる。もはや先生が「肝試し中は手を繋ぐこと」なんて補足説明をしても聞いている者は誰もいなかった。
 そのまま休み時間に突入すると、6年2組の教室は群雄割拠の時代を迎えた。男子は男子、女子は女子でそれぞれグループに別れると、互いを牽制し合いながら誰と組むとか組まないとか密談が行われた。
「別に俺は誰でもイイし」
 坊主頭の小野が言った。彼は少年野球のエースでクラスのガキ大将だ。小野の取り巻きである男子二人が「そうだよな」「全員クジ引きでよくね?」なんて具合に彼の発言に続く。しかし吉田だけは違った。彼はもごもごと「じゃあ、俺――」と切り出すと、仲間である小野たちに自らのドラフト一位指名を伝えた。
「入内島と、組もうかな」
「ハァ?」
 いち早く反応したのは小野だった。
「なんで?」
「いや、なんでって――」
 入内島はクラスで一番人気の女子である。男子なら誰もが真っ先に彼女と手を繋ぐことを夢見るだろう。しかしそれを自ら口に出す者は少ない。何故ならクラスで一番ケンカの強い小野が、入内島のことを大好きだと知っているからだ。
「なにお前、入内島のこと好きなの?」
 真面目な顔で小野が言うと、吉田は顔を赤くして「いや、別に」と否定した。無論、吉田も入内島のことが大好きだった。
「お前、入内島のこと好きなんだろう」
 なおも小野が追及してくる。吉田は必死に訴えた。仮にクジ引きだと、誰と組まされるか分かったもんじゃない。所詮は消去法だ、と。

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