小説

『チューリップの花が』太田純平(『大工と鬼六(岩手県)』)

 
 すると小野は「確かにな」と彼の弁に納得するフリをしてから「じゃあ俺も入内島にしよっかな」と吉田に告げた。
「え、えぇ?」
 吉田は疑問というより抗議に近い声を出した。そして間髪入れずに「キミは別に誰でもイイんだろう?」と痛いところをついてやったが、小野は「別に誰でもイイんだから入内島だってイイだろう」という理屈で一歩も譲らなかった。
 こうなると吉田は何も言えなかった。このクラスには明確なヒエラルキーがある。
ケンカが強くて運動もできる小野を頂点とした五段階のピラミッドだ。彼の下には吉田をはじめとする、そこそこ運動が出来て昼休みに小野と遊ぶグループが鎮座している。その下には運動は出来るけど小野とつるまないグループが。下層のほうは言わずもがな、勉強が得意なグループや、外で遊ばないグループがいる。
 何が言いたいかというと、小野は絶対だということだ。小野が入内島と組むと言ったら他の男子に彼女を選ぶ権利はない。
 吉田と小野の話をまとめるように、取り巻きの男子の一人が言った。
「ええっと、てことは小野が入内島で、吉田は――?」




 放課後。小野と吉田ら男子四人組が、靴を履き替えて昇降口から出て来た。
「なぁ、小野」
 不意に吉田が声を掛けた。
「俺、やっぱり、入内島と――」
 吉田が深刻そうな顔で語り始めると、小野と取り巻き連中はニヤニヤした。
「なんだお前、まだ言ってんのか?」
「そんなにアイツと組みてぇの?」
「やっぱり入内島のこと好きなんだろう?」

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