小説

『友達リクエスト』山本(『因幡の白兎(鳥取県)』)

 金曜の夜で商店街は賑わっている。
 開放したドアから漏れる笑い声の中を、兎和(とわ)はコンビニの袋をぶら下げながら通り抜けた。今週末も天気は良さそうだ。ハイキングにはもってこいだろう。
 アパートに着くと窓を開けた。スーツのジャケットを掛け、ベッドに座る。勇一はもう帰っているだろうか。「ただいま!」のスタンプを送ると、すぐに既読がついた。
 画面をホームに戻したときだった。SNSのアイコンに通知のマークがついている。開くと友達リクエストが1になっている。どうせ怪しいアジア美女のアイコンを纏った迷惑リクエストだろう。それでも「削除」を押さない限り「リクエスト1」が残ったままなのは鬱陶しい。
 ため息まじりに通知を開く。削除へ指を動かし、兎和はその名前を二度見した。アイコンの写真を確認するが、小さくてはっきりとは分からない。でもきっと、本人だろう。
 携帯を布団に伏せ、向かいの白い壁をしばらく見つめる。とりあえず部屋着に着替えた。床に落ちた糸くずが目に入りゴミ箱へ捨て、ゴミ袋を取り出すと翌日は収集日でもないのに捨てに行った。日中は暖かくなったが夜はまだ少し寒い。なりかけの満月が雲のカーテンの向こうで滲んでいる。
 ベッドに戻り、兎和はもう一度携帯を握った。
「なんで?」
 ついに声が出る。
「なんで、なんで、なんで?」
 身震いして、兎和は窓を閉めた。「今から向かうよー」と勇一のメッセージが画面の真ん中にポンッと浮かんだ。


 バックパックをドア横に下ろし、勇一は兎和へカメラを向ける。
「じゃじゃーん! 買っちゃいました~」
 シャッターを切る音が連続し兎和が視線を向けると、見慣れた一眼レフにずっしりと黒いレンズが装着されている。
「これでさ、遠くの動物や鳥たちも撮影できるようになったわけよ。喜ぶぜ、子どもたち。教科書で見るのと、実際の写真で見るのとはやっぱりリアルに差があるからね」

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