部屋の四隅にレンズを向け、勇一は立て続けにシャッターを押す。兎和は立ち上がると、コンビニで買ったグラタンをレンジへ入れ、サラダをテーブルに置いた。その間も勇一は、兎和を被写体に練習している。
「どうしたの? 何かあった?」
熱々のグラタンを取り出し、ふり返った兎和を撮りながら勇一が尋ねた。
「いつもならなんか言うじゃん」
「友達リクエストがさ、届いてたんだよね」
「リクエスト? 誰から?」
ようやく勇一がカメラを下ろす。ピカピカのレンズを念入りに拭くとカバーをはめ、雛を巣に戻すかのようにそっとケースへしまう。
「高校時代の……」
兎和は持ち上げていたフォークを置き戻した。熱で少しぺこっとなった蓋をもう一度被せる。
「元カレとか?」
兎和はニコリともせずに首を振った。
「美琴……、同級生っていうか、一緒の部活っていうか、わたしたちオケバンドっての組んでたんだよね」
「オケバンド?」
「オーケストラバンド。っていっても全部で五人だけなんだけど。わたしはクラリネットで、他にフルートやサックス、トランペットがいて、美琴はバイオリンだったんだ」
「吹奏楽部とは別なの?」
ジャンパーを脱いで軽装になると、勇一は兎和との距離を詰めて座った。
「わたしたちは趣味でやってただけだから。流行りの曲を自分たちでアレンジして。ちょっと練習すれば形になるくらいの」
「初耳なんですけど。兎和のクラリネットも」
「美琴とは一年生のときに同じクラスで同じ塾だったんだ。だから息抜きで音楽続けられたらいいよねって。他に興味ある人探してメンバー集めて、先生にお願いして、旧音楽室使えるようになって。塾のない日は放課後ほとんどそこにいたと思う。もう息抜きじゃないよね」
「親友じゃん」
いいなぁ、と勇一がぼやいた。