小説

『チューリップの花が』太田純平(『大工と鬼六(岩手県)』)

 吉田は家に帰るなりすぐさま父親のパソコンを起ち上げた。小四くらいから触り始め検索くらいだったらお手の物だ。
「チューリップ、赤色、一日で咲く」
 検索窓に入力してエンターキーを押すと、吉田の淡い希望は絶望に変わった。たった一日で咲くチューリップなどこの世には存在しない。
「……」
 とはいえ何もしないわけには――。吉田は居ても立っても居られず、とりあえず財布だけ持って家を飛び出した。そして近所の花屋でチューリップの球根を十個ほど手に入れると、急いで小学校の花壇へ向かった。
 校庭ではサッカーをしている者や、まだ下校途中の生徒もちらほらといた。そんな連中を尻目に吉田は花壇に入ってしゃがみ込むと、適当に土を掘ってチューリップの球根を中に植えた。
 水をやり、じーっと観察してみる。サッカー少年たちの威勢の良い声。下校途中の下級生に後ろ指をさされたりもする。しかし待てど暮らせど一向に芽が出て来る気配は無い。そりゃあそうだ。分かってはいたが、分かってはいたが――。
 吉田は困り果てた。小屋にいるニワトリが嘲笑うような声で鳴く。
「な~に困ってんだ?」
 そんな矢先だった。吉田の前に高校生くらいのお兄さんが現れたのは。学生らしく制服を着ている。見知らぬ人と話してはいけないと教わったけれど、今の吉田は藁にもすがりたい心境だった。
「明日までに、ここにチューリップを咲かせないといけないんです」
「明日までに?」
「ハイ……」

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