小説

『チューリップの花が』太田純平(『大工と鬼六(岩手県)』)

 
 アハハハハ、と小野らにからかわれた吉田は顔が真っ赤になった。けれども吉田はめげなかった。彼はこの日の授業中ずっと思い浮かべていたのだ。小野と入内島が手を繋いで歩く映像を。何度も何度も頭の中で――。
「俺さ……」
 意を決したように吉田が切り出した。
「入内島と、一年生の時から、クラスが全部、一緒なんだよね」
「だから?」
 小野が冷たく切り返す。彼は入内島とは小五からの付き合いだ。
「だから、えっと、仲が良いというか、組みたいなぁ、って――」
 吉田がいつにもなく真顔で言うから、取り巻きの男子たちは反応に困って小野の顔を頼った。さながら王のご機嫌を窺うように。
「お前さぁ……」
 王たる小野が吉田に何かを言い掛けようとした、その時だった。昇降口からクラスメイトの女子たちが何人か出て来た。その中には渦中の入内島の姿も――。
 小野は急にアピールでもするように背伸びをすると「ま! 俺は別に誰もいいんだけどさぁ!」と声のトーンを二段階くらい上げた。
「ほ、本当? じゃあ俺――」
 と入内島のほうを一瞥しながら吉田が言うと、小野は遮るように彼に告げた。
「そうだなぁ! お前、あそこの花壇になんか花でも咲かせてみろよ!」
 そう言って小野は、ニワトリ小屋の脇にある花壇を指さした。まだ新学期が始まって間もないため、花壇には特に何も植わっていない。まるで荒野だ。
「そうだなぁ! じゃあチューリップだ! 明日までにお前、あそこの花壇いっぱいにチューリップを咲かせてみせろよ! 赤いやつ! そしたらお前に譲ってやるよ!」
 小野は通り過ぎて行く女子たちへ聞えよがしに言うと、じゃれ合うように吉田の頭にヘッドロックをかけた。自分から「入内島は譲らない」と言うのではなく、無理難題を突きつけて相手に諦めてもらう。実に6年2組の王らしいやり方だった。



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