『彼女が求めた赤』
斉藤高谷
(『地獄変』)
観る者を圧倒する絵を次々に描き、〈天才〉と謳われた女子高生ヨシノ。彼女は絵のモチーフとして様々な無理難題を要求しては、美術部の顧問を困らせていた。あるとき「真っ赤な薔薇が欲しい」と彼女が言い出し、顧問の〈俺〉はお安い御用と請け負ってしまう。
『新しい生活』
榎木おじぞう
(『小人のくつや』『セロ弾きのゴーシュ』)
リモートワークとなった私は仕事に行き詰っていた。ある日、小人が現れ、仕事の邪魔をするようになった。おかげで仕事を効率的に進められるようになり、質も上がった。あるとき小人と戯れようとするが小人はおびえてしまい、姿を消してしまう。私は仕事を褒められるが、寂しい思いをする。
『生者の書』
裏木戸夕暮
(『死者の書』)
少子高齢化が進み、寿命は個人の才能や財産で延命か安楽死か判断される、非情な社会。交通事故で重傷を負い、高度な医療により命を取り留めた書道家の話。
『ホップステップ』
小山ラム子
(『王様の耳はロバの耳』)
無意識のうちについていた美空のため息をとがめてきたのは、大人しそうに見える隣の席の貝塚くんだった。意外とはっきりとした物言いをする貝塚くんと話している内に、美空は親友にも言えなかった本音がこぼれでる。
『枯れ木に花を』
ウダ・タマキ
(『花咲かじいさん』)
妻の恵美子に先立たれた私は、老犬タロと一緒に暮らしている。生きる意欲を失い、酒に溺れて社会的孤立状態である。そんな私に相反して、隣の家では三世帯が幸せそうに暮らしている。ある日、タロが庭の桜の木の下を掘れと言わんばかりに示した。そこから掘り出された物は・・・・・・
『ミライちゃん』
柿沼雅美
(『キューピー』)
1年前、ミライが消えた。最近になってメモ書きが見つかり、海外にも行きたい、マスク外して紫のリップを塗りたい、キスもセックスもしたい、と書かれていた。新しい思想なのか過去の思想なのか、私たちは分からないまま、ミライはマイテンという区域にいるのでは、と友達が言いだした。
『マスク売りのおっさん』
室市雅則
(『マッチ売りの少女』)
男が勤める会社はマスクを大量買いし、一儲けを企むも売り時を逃した。年越し前に少しでも在庫を減らすようにと、クリスマスイブに男はマスクを街頭で売ることを命じられた。
『バーテンさん、話を聞いてください。』
真銅ひろし
(『安珍・清姫伝説』)
会社の女性と1回だけ浮気をしてしまった。そして自分の中ではその1回で関係は終わったと思っていた。しかしその女性の愛情は止まらず、妻がいる自宅にまで押しかけてきてしまった。一度の過ちからその女性の愛情に怯えてしまう、というある夜のお話。
『カレーか不倫』
真銅ひろし
(『ロミオとジュリエット』)
沙織は不倫をしている。そして相手の男も結婚しているからW不倫。家族に内緒でする恋は二人を余計に燃え上がらせた。しかし心の隅では『こんな事を続けていいわけがない』と感じている。そんな時友人の美香がその不倫を『ロミオとジュリエット』に例えて話し始める。