小説

『カレーか不倫』真銅ひろし(『ロミオとジュリエット』)

 不倫、この行為がどれ程愚かな事か分かっている。
 しかもダブル不倫。
 でもしてしまったのだ。心も体ももう以前のようには戻れない。
 よくありがちでも、恋に落ちるときは落ちる。顔が好み、そして性格が好み、雰囲気が好み、そして全てが好みになる。
 これが『恋』と言うやつだ。

 「お母さん、最近楽しそうだね。」
 夕飯の支度中、7歳になる息子の純一が話しかけて来た。
「え、どうして?」
「分かんない。でも楽しそう。」
「そんな事ないよ、お母さんはいつも楽しいよ。」
「ふ~ん。」
 そう言ってテレビの方に行ってしまった。
「・・・。」
 内心ドキッとしてしまった。言葉にはしなくても表情や雰囲気で分かってしまうものなのか。

 気を付けないと・・・。

 緩んでいると思われる口元をキュッと締め直す。夫に感づかれでもしたら大変だ。
「・・・。」
 けれど少し悲しさがこみ上げてくる。楽しそうでいる事がまるで悪いみたいだ。

 お店の事務所に入ると直人さんがパソコンに向かって仕事している。
「おはようございます。」
「あ、おはようございます。」
 こちらの声に反応し、目が合い、直人さんが笑顔で応えてくれる。その笑顔に自分の心が自然と高揚するのが分かる。
 更衣室に入って制服に着替える。
「おはようございまーす。」
 朝番のパートの人達がポツポツと出勤してくる。
 ここは大手チェーン店のご飯屋さん『みなも屋』。
 私もここのパートとして働いていて、「直人さん」と言うのがここの店長。
「最近さー、旦那のイビキが凄いのよ。」
 パート仲間の吉田さんが制服に着替えながらしかめ面で愚痴る。
「お陰で寝不足。ソファーで寝ろって言ってやりたい。」
 その言葉に他のパートの人達も同調するので私も合わせる。
「・・・。」

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