『あなたはだんだんだんだんとてもすごくきれいになる』
ノリ・ケンゾウ
(『智恵子抄』)
チエちゃんは自分の拳しか信じない。「私は私の拳しか信じない、私のすべてはこの拳の強さだし、この拳の強さだけがわたしの存在意義」が小さい頃からの口癖だった。初めてチエちゃんの口からそれを聞いたとき、私はその言葉の意味が分からなくて、チエちゃんに「ソンザイイギ、ってなに」と聞いた。
『シャフリヤールの昼と夜』
里中徹
(『アラビアン・ナイト』)
主人公は離婚を契機に出張型サービスを使い始めるが、そこで不思議な女性と出会う。その女性はいつも面白い話を聞かせてくれ、会うたびに惹かれていく。しかし過去の失敗から、主人公はその先に進む勇気がでない。そんな中、主人公に転勤の話が舞い込む。
『勇者はおばけの如く』
鈴木沙弥香
(『桃太郎』)
中学二年生の竜は、軟弱を理由に同級生たちからいじめを受けていた。いじめを苦に自殺をはかる竜の前におかしな3人の幽霊が現れる。幽霊たちは竜の寿命と引き換えにいじめっ子退治の手助けを約束する。「幽霊が寿命もらってどうすんの?」死にたがりの14歳と幽霊達の不思議な交流が始まる。
『さくら』
森な子
(『さくら、さくら』)
「そうか」というのが父の口癖で、母がいなくなった時も、私が家を出る時も、無関心な風に一言そう呟くだけだった――。桜は高校を卒業するのと同時に家を出ることを決意した。父は自分を嫌いだろうし、いなくなった方がせいせいするだろう。けれど、巣立つ準備をしていく中で、父の本当の想いに触れることになる。
『葬儀屋』
空亡
(『河童(妖怪)の伝承』)
代々つづく葬儀店の主人である黒良は、依頼主である川中氏の邸宅に出向き、そこでミイラ化した遺体を見る。不審を抱くも家訓に従い、葬儀を成す。しかし後日、彼はまた川中氏から呼び出される。蔵に閉じ込められた彼は、その遺体の謎を聞かされるのだが――。
『螺鈿の小箱』
霜月透子
(『浦島太郎』)
寂れた海辺の町に暮らす志麻子は、高校入学前の春休みを裕福な叔母・美姫のもとで過ごす。そこでの生活は楽しく、瞬く間に三週間が過ぎようとしていた。ずっとここにいてもいいと引き留める美姫。後ろ髪を引かれながらも帰ることを選んだ志麻子だったが、実家のあった場所は更地となり荒れ果てていた。
『少女は非力な夢を見る』
小田
(『金太郎』)
先天的な遺伝子疾患により、非常に強い力を持つ、女子高生の華は、その力を隠しながら生活していた。ある日、好きな男子生徒がいじめられているのを助けようと、相手の男子生徒を倒してしまう。すると、倒した男子生徒が、なぜか華を好きだと言い寄ってきて・・・
『投げキッスの放物線』
吉永大祐
(『女生徒』)
中学生の実紗は、不思議な夢を見続けていた。下着に黒いバラの刺繍が施されている夢。母親との二人暮らしの日々の中で、自分の存在価値が見い出せずにいる実紗は、テニス部の後輩の莉穂を可愛がることで、支配欲を満たしていた。ある時、別の後輩の菜月との会話を通じて、実紗の夢にある変化が起きる。
『太郎会議』
まいずみスミノフ
(『桃太郎』)
「桃て」議論の口火を切ったのは柿だったか林檎だったか。昔話・桃太郎における桃の必要性について果物界では今大論争となっていた。やがてそれは新しい『◯◯太郎』を決める『第一回太郎会議』の開催となる。議長を務める初代桃太郎は頭を抱えていた。「この話し合いに何の意味があるのか…」