小説

『太郎会議』まいずみスミノフ(『桃太郎』)

 議論の口火を切ったのは柿だったか林檎だったか。今となってはもう定かではないが、その発言は果物界全体に波紋をもたらした。
「桃て」
 昔話「桃太郎」における桃の必然性について、彼らはかねてより疑問を抱いていたのだ。そして隙あらば自分が「◯◯太郎」に頂いてやろうと画策していた。
 間もなくして「第一回太郎会議」が開催される運びとなる。
 場内にはところ狭しと古今東西の果物が集められた。フルーツジュースさながらの甘い香りが辺りに漂う。一方でいたるところで桃の悪口が飛び交っていた。
「桃であることの必然性がない!もっと物語に適した果物に変えるべきじゃないか」
「だいたい梱包材でぐるぐる巻きにしないと満足に流通もできない軟弱な果物が、川の激流に耐えられるはずがない。リアリティに欠けるんだよ!」
「常温保存で三日で腐るぞ!」
 一方渦中の桃はあたかも自分が昔話界の頂点に君臨しているかのように「またくだらない議論してらあ」と後ろの席でふんぞり返っていた。
「皆の者静粛に!」
 議長を任された初代桃太郎の朗々たる声が響き渡る。
「ここに第一回太郎会議の開催を宣言する。我こそは太郎の名を頂くに相応しいという果物がいたら御起立願う」
 真っ先に立ち上がったのは柿だった。
「もちろん柿だ。日本人の心といったら断然柿だろう。柿から生まれた柿太郎、これに尽きる」
 自信満々の柿に対して、場内から嘲笑が起こる。
「柿なんて今の子どもたちは食べるのかね」
「どこにでも生えているくせに、スーパーに並ぶ時だけは一丁前の値段だものなあ」
「だいたいね味がパッとしないんだよ。種も大きくて食べづらいし」
 柿は恥ずかしいやら腹立たしいやらで、顔を真っ赤にして席についた。
 柿に変わって立ち上がったのは林檎である。
「切って良し。擦って良し。焼いて良し。ジャムでもパイでもなんでもござれ。これほどまでに汎用性に長けた果物は我々林檎を除いて他にいません。同じバラ科の植物という点においても、次世代の太郎の担い手は林檎。林檎太郎です」
 林檎の高飛車な態度は鼻につくが、彼のいうことは一理あった。
「なんといってもカレーに入ることを許された唯一の果物ですよ?」
「カレーは今は関係ないだろ!」と場内から野次が飛ぶ。
「おれたちだって酢豚に入っているぞ!」といったのはもちろんパイナップルだ。
 次に立ち上がったのは西瓜である。
「よおおれはスイカだ。あんたたち冷静に考えてみろ。桃だの柿だの林檎だの、あんなちいちゃな果物に人間が入るかってんだよ! 子どもがギリギリ入る大きさの果物といったら西瓜だ。西瓜太郎だろ」
「そこはフィクションだろ!」

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