小説

『投げキッスの放物線』吉永大祐(『女生徒』)

 チョコミントアイス、それは夜空に浮かぶ小さな惑星。
 エメラルドグリーンのミントの海に、チョコで象られたいくつもの大陸が浮かんでいるようで―。
 こんな星にひとりで住めたらいいな、なんて。お気楽なことを考える。ひとりぼっちになったらどうせ、急にぴいぴい言うくせに。そんな勇気もないくせに。それでもとにかく、こうして誰にも邪魔されず、チョコミントの甘さと苦味のアンバランス感に包まれている時がいちばん幸せ。
 私は家の近くの川縁の階段に座り、チョコミントアイスを舐めながら、あの夢のことを考えている。お姉ちゃんが大学進学のために家を出ていったあの日から、しばしば見るようになった夢のこと。
 夢の中で私は目覚める。いつもと変わらない自分の部屋。寝ぼけまなこでパジャマを脱いだ私は、下着の胸のところに黒っぽい模様があるのを見つける。もう何度も同じ光景を見ているはずなのに、夢の中の私は毎回ちゃんとびっくりする。やだ、虫と騒ぐ。ところが、何度手で叩き落とそうとしても、その模様はピクリとも動かない。恐る恐る指で撫でてみると、そのザラッとした感触から、それがようやく虫でないことに気づいてほっとする。メガネをかけて、姿見の前に立ち、よくよく胸元を覗いてみると、それは一輪の黒いバラの刺繍だった。
 初めのうちは特に気にもしていなかった。もちろん、そんな下着を買った覚えはなかったし、夢から醒めてしまえば、下着はきちんと元どおりになっている。水色だとかピンクだとか、今もそうだけど、女の子っぽい色ばかり好んでいる私も、少しずつ大人っぽいものに惹かれるようになってきた、そんな心理的なサインみたいなものかな、くらいに思っていた。
 ところが、そう呑気に構えてもいられなくなったのは、その夢が三日も続いたからだった。しかも、日を追うごとにバラの数は少しずつ増えていったのだ。
 さすがに気味が悪くなって、「黒いバラ」に「夢」「下着」「中学生」「メッセージ」「お告げ」と、いろいろな言葉をくっつけてググってみた。けれど、そこには「無限の可能性」や「成長の証」みたいな言葉もあるかと思えば、「病気」や「死」「憂鬱」だとか、読んでいるだけで気が滅入るようなものもあって、かえって困惑するだけだった。
 私はメガネをそっと外す。ぼんやりとした視界の中で、川面に揺れる月明かりが、本当の銀河のように思えてくる。群青色の銀河を漂うチョコミント星を見つめながら、ふと考える。もしこれが、今私が生きている、この地球だったとしたら―。
 半分くらいになったアイスに、私は思いっきりかぶりつく。こんな世界、丸ごと全部飲み込んでしまえ。侵略者になったような気分で、口の中で無理やりアイスを溶かし込んでいると、全身になんとも言えない爽快感が広がった。

 この夢にはきっと、ママが大いに関係しているのかもしれない。先週末にママと口喧嘩をして以来、私は強くそう思うようになっていた。

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