小説

『死亡フラグ狂騒曲』宍井千穂(『桃太郎』ほか)

 死亡フラグ……登場人物の“死”への伏線のこと。死亡が予見されるような行動・発言を指すことが多い。

 
「本日は『おとぎ話・オールスターバトル』にお集まりいただきまして、誠にありがとうございます。私、司会の安出栗無と申します。どうぞよろしく」
 パラパラと拍手が参加者から送られる。桃太郎は適当に手を叩きながら、参加者たちの顔ぶれをザッと確認した。さすが有名なおとぎ話の主人公を中心に集めているだけのことはあり、錚々たるメンバーが並ぶ。
 斧を担ぎ筋肉アピールをしている金太郎、釣竿の手入れに没頭している浦島太郎、緊張で灰をぶちまけ足元に大量の花を咲かせている花咲か爺さん……。中には海外の童話からやってきているのか、外国人の姿もちらほら見られた。
 手強いな、桃太郎は思った。皆物語の中で修羅場をくぐり抜けてきた猛者たちだ。だがここで勝てなければ、オレの人生はずっとさえないままだ。桃太郎の脳裏に、自分を嘲笑う人々の顔が浮かんだ。
所詮一発屋でしょ。
桃太郎って名前は聞いたことあるけど、何した人?
動物がいないと何もできないんじゃないの。
そんなことを何度言われたことか。世の中は一発屋のヒーローには優しくないのだ。だからこそこのゲームで勝ち残り、オレの実力を世間に見せつけなければならない。もう飲み屋で愚痴をこぼす毎日とはおさらばだ。
「ではここで今一度ゲームのルールについて確認させていただきます。お手元の地図をご確認ください」
 事前に配られた地図に目を落とす。スタートと書かれた場所からゴールまではかなり距離があり、途中には海らしきものもある。
「この会場にはステージ1から3まで3つのステージが用意されています。ステージ1は迷路。知恵と勘に優れた者だけに道が開かれます。ステージ2は海。逃げ場のない中で、いかに勇敢に戦えるかが勝敗の分かれ目となります。最終ステージは……これはまだ言えませんが、厳しい戦いになることは間違いありません。そして全ステージを制した者には、新作おとぎ話への出演権が贈られます。こちらの童話はすでに映像化も決定しています」
 言葉にならない叫びが参加者たちから漏れる。これがラストチャンスだという自覚があるのだろう、どの参加者たちもひどく真剣な顔をしている。
絶対に、負けられない。桃太郎は自分の拳をきつく握りしめた。
「それでは『おとぎ話・オールスターバトル』、スタートです!」
主人公たちの戦いの幕は、今切って落とされた。

 
「ここはどこなんだ?」
 後ろで浦島太郎が呟いた。
「地図のここら辺じゃないかな。多分、迷路の半分くらいには来てると思う」

1 2 3 4 5 6 7 8 9 10