小説

『死亡フラグ狂騒曲』宍井千穂(『桃太郎』ほか)

「主人公級集まりフラグ、みたいな。ほら、物語の最後の方で主人公たちが集まってラスボスを倒すぞ!っていう展開になると、その中の誰かが死んだりするじゃないですか。あとは頼むぞ……って感じで。それに当てはめたら、僕たちみんな有名なおとぎ話出身じゃないですか。もしかしたら、フラグ立ってるのかも……なんて」
 はは、と一寸法師が笑うが、他の誰も笑おうとはしなかった。このヒヤリとする感覚、間違いない。もうフラグは立てられたのだ。桃太郎が身構えるよりも早く、下から突き上げられる感覚を感じた。ボートが真っ二つになり、4人とも海に放り投げられる。
「早く泳げ!」
 浦島太郎の声に、皆島に向かって泳ぎ出す。島まではあと300mほどだろうか、泳げない距離ではないが、亀のスピードには勝てない。だめだ、全滅する……。
「みんな、わしはどうやらここまでのようじゃ」
「花咲か爺さん……?」
 今まで一番後ろを泳いでいた花咲か爺さんが、不意に泳ぐのをやめた。
「やめろ、それ以上言うな!」
 浦島太郎が止めようとするが、花咲か爺さんの灰が撒かれる方が早かった。海面からニョキニョキと草木が生え始める。
「わしはここまで長生きできて満足なんじゃ。もう人生に悔いはない。だが、君たち若者は生きねばならぬ」
 3人をまっすぐに見据えてそう言うと、花咲か爺さんは亀に向かって泳ぎ始めた。
「おい!そっちに行くな!」
 桃太郎も助けに行こうとするが、草木に邪魔されて亀の方へ進めない。全身が光に照らされた花咲か爺さんは、亀の前で止まり、こちらを振り返った。その顔には清々しい笑顔が浮かんでいる。
「爺さーーん!」
 桃太郎が叫んだ瞬間、花咲か爺さんは亀の口の中へと消えていった。
亀は桃太郎たちも飲み込もうと向かってきたが、生い茂った草木に遮られ、それ以上進めないようだった。苛立ったように木に体当たりし、海底へと姿を消した。
 爺さんはオレたちを助けるために……。光に照らされた神々しい爺さんの姿が目に焼き付いて離れない。
「次世代に受け継ぐ系フラグだ……」
 浦島太郎はうつむき唇をかみしめた。
「年長者に立ちやすいフラグで、若者を生かすために自分を犠牲にするんだ。爺さんはそのフラグが立つことをわかってて、わざとあんなことを……」
「おじいさん……」
 一寸法師の目には涙が浮かんでいる。誰も泳ぎだそうとはしなかった。静寂の中で波音だけがやけに大きく響く。
「……違う」
 長い沈黙を破ったのは、桃太郎だった。
「オレたちが今すべきなのは、爺さんの死を悲しむことじゃないだろ!爺さんは、オレたちを先に進ませるために自分からフラグを立てたんだ。だから、オレたちは進まなければならない……何があっても」
「桃太郎……」

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