小説

『死亡フラグ狂騒曲』宍井千穂(『桃太郎』ほか)

 桃太郎の言葉に、二人はハッとしたような顔を浮かべた。
「そうですよね……僕たちがここで立ち止まってちゃ、おじいさんが浮かばれませんよね」
「いいこと言うじゃん、桃太郎のくせによ」
「さあ行こう、島はもうすぐだ」
 桃太郎は先陣を切って泳ぎ始めた。二人も後に続く。
桃太郎は、今までに感じたことがないほど自信がみなぎっているのを感じていた。太陽の光が水しぶきに反射して、桃太郎の周りをキラキラと輝かせる。
オレ、今すごく主人公っぽい。

 
 桃太郎たちが小さな島にたどり着いた頃には、すでに日が傾き始めていた。無事に上陸できた者は、両手で数えるほどしかいないようだった。
「それにしてもなんなんだ、この島?」
「あの火山、変な形してますね。まるで、鬼みたいな……」
「……鬼ヶ島だよ」
 桃太郎はぽつりと呟いた。二人が桃太郎の方を振り返る。
 そうだ、間違いない。桃太郎は確信していた。なぜもっと早く気づけなかったのか。あの島のフォルムを見たときに感じた懐かしさは、勘違いでもなんでもなかった。鬼の角のように二本の岩が突き出た火山は、鬼退治に来た時と何一つ変わっていない。
「えー、それではこれで全員が集まったようなので、最後のステージを発表させていただきます!ステージ3はここ、鬼ヶ島が舞台となっております。すでに知っているという方もいるとは思いますが……」
 安出はちらりと桃太郎の方に目を向けた。
「ゴールは、この鬼の形をした火山の頂上に設定しています。もっとも早くこのゴールにたどり着いた方が、このゲームの勝者となります。どんな手段を使っても構いませんが、敵となるのは他の参加者だけではありませんのでご注意を……。それでは各自、位置についてください」
 桃太郎は二人の横についた。ここがどこだろうと関係ない。オレは、いや、オレたちは、爺さんの遺志を受け継いで勝利するのだ。3人で目配せをし、頷きあう。
「最終ステージ……スタート!」
 パン、という鉄砲の乾いた音とともに3人は走り出した。目の前の火山に続く道を駆け上がる。
「火山は標高自体はそれほど高くない。道も入り組んではないし、普通に行ければ30分もかからないはずだ」
「普通に行ければ、な……」
 浦島太郎が眉間にしわを寄せた。
 確かにそうだ。今までのステージから考えても、何か障害が出てくるはずだ。だが、ここ鬼ヶ島で出てくる敵など、もう一つしか考えられない。
「や、やめろぉぉ!」
 後ろから苦しそうな悲鳴が聞こえてくる。慌てて振り返ると、力太郎が茂みの中に引きずり込まれようとしていた。力太郎の足首を掴んでいるのは、人間の2倍はあろうかという太い腕だった。腕の主は暗がりに潜んでいてよく見えないが、その肌は血のように赤い。鬼だ……。

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