42名……。半分以上が、このステージ1で脱落したことになる。金太郎のリタイア以降、桃太郎の精神はかなり削られていた。辺りを見渡すと、他の参加者も一様に疲れた顔をしている。おそらく皆このゲームのからくりに気づいたのだろう、誰も一言も発しない。
「それでは次のステージは……こちらになります！」
安出が目の前に広がる海を指差した。
「ここに、10艘のボートがあります。皆様にはこのボートに乗って、ここから５km先にある島を目指していただきます」
目を凝らすと、確かに黒い島影が遠くに見えた。桃太郎はなんとも言えない懐かしさが胸に広がるのを感じた。何かに似ているような……。
「それでは皆さま、準備はよろしいでしょうか。ステージ２、開始です！」
安出の号令に我に返り、桃太郎たちはボートに向かって走り出した。その中で一人の外国人が圧倒的な足の速さで、他の参加者を追い抜いていく。その走りっぷりからすると、『走れメロス』のメロスらしい。メロスはボートに乗り込み、エンジンをかけ始めた。
「おい、お前、一人で行く気かよ！1０艘しかないんだから、他のやつも乗せないとボートが足りなくなるだろ！」
浦島太郎が叫ぶが、メロスは無視してボートを発進させた。
「kbdiibyyo!*@;msijinvorufapq」
なんと言っているかはわからないが、その勝ち誇ったような様子からすると、「ザマアミロ！負け犬は一生這いつくばっているんだな」とでも言っているらしい。
遠くなっていくボートを眺めながら、桃太郎の心に湧き上がってきたのは怒りではなく哀れみだった。「あいつ、終わったな」という声がどこからか聞こえてくる。
全員の予想通り、すぐにボートは動かなくなった。慌てるメロスの後ろで、巨大な亀が顔を出す。亀はメロスの姿を見つけると、大きな口を開けボートごとメロスを丸呑みにした。そのまま海に飛び込み、あっという間に姿が見えなくなる。
「一人だけ生き残ろうとする系フラグだな」
皆が静まり返る中、浦島太郎がボソッと呟いた。
「ホラー映画とかでよくあるパターンだ。自分だけ安全な場所に立て籠もろうとして、逆に襲われるやつ。敵に捕まったらこんな恐ろしい目にあうっていうのを示す役割もある」
メロスは身を以て亀の存在をオレたちに教えてくれたんだな。桃太郎は海に向かってそっと合掌した。
メロスの惨劇を見たからか、残りのボートの分配については誰も文句を言おうとはしなかった。桃太郎のボートには浦島太郎、花咲か爺さん、一寸法師の3人が乗り合わせることになった。
「よろしく頼むのぉ」
「よ、よろしくお願いします」
簡単な自己紹介を済ませ、ボートに乗り込む。
「じゃあ操縦は俺がするよ」
そう言うと浦島太郎はさっさと操縦席に座った。操縦者は島に着くまで死なないだろうという計算なのだろうか。桃太郎は浦島太郎の計算高さに内心舌を巻きつつ、助手席に座った。