子どもが、淡々とした口調で言う。
ミユキは、少なからず、むっとした。生意気な子だと思った。
けれど、ミユキを見詰める子どもの眼差しは、全く穏やかである。実経験の伴わない空理空論を振りかざしているのではないことが、
「よくわかんないけど、僕はそう思うよ」
という、控えめな言い方から感じ取れた。
「僕だって、一人ぼっちだよ。お父さんはいないし、お母さんも死んじゃった。お姉ちゃん、僕も死んだ方がいいと思う?」
「……」
これほど幼い子どもに自死を勧めることができるわけがない。この子の命はこの子のものなのだ。
正しいのは、この少年の主張の方。それがわかっていても、ミユキの感情が、素直に彼の言葉を受け入れてくれない。ミユキは正論から逃げるしかなかった。
「とにかく、ついてこないで!」
叫ぶように言って踵を返したミユキの足が踏みしめるはずだった地面は、だが、そこにはなかった。折れた小枝に降り積もった落ち葉の上に力一杯踏み出して、ミユキは滑落――しそうになった。
もともと野垂れ死にするために踏み入った山である。しかも、僅か四、五メートルほどの崖。そのまま落ちても、ミユキには何の不都合もなかった。しかし、『落ちる!』と感じた瞬間、ミユキの右手は反射的に崖肌に露出していた木の根を掴んでいた。