「君、どうして、私のあとをついてくるの」
「……僕、迷子みたい。ここはどこですか?」
彼の話し方には、この地方の訛りがなかった。古ぼけた靴。高級ブランド品だが、すり切れた服。子どものこんな服装に、ミユキは見覚えがあった。
「迷子って、お父さんやお母さんとはぐれたの?」
「僕には、お父さんもお母さんもいない。僕は施設の子だよ」
ああ、やはりと思う。彼は、養護施設に寄付された衣類を身に着けているのだ。見覚えがあるのも当然。彼の出で立ちは、幼い頃のミユキやタスクのそれだった。
とはいえ、児童養護施設の子どもがこんな場所に一人でいるのはおかしなことである。児童養護施設は、美容院や歯科医院のように、どこにでもあるものではないのだ。人口の多い都会ならともかく、地方ではなおさら。
「すぐに、来た道を戻りなさい。私についてきちゃだめよ。私は、この山で遭難して死ぬつもりなんだから」
ミユキの言葉に、少年が目をみはる。それから、彼は、実に率直な質問をミユキに投げかけてきた。
「どうして死のうとしてるの」
「生きていても幸せになれないことがわかったからよ。私の大切な人が死んじゃったの。私は一人ぼっちなの」
親のない施設育ちなら、わかるでしょ! とまでは、ミユキもさすがに声に出して言うことはできなかった。
「死んだって、幸せになれないよ」