小説

『燃えかす』太田早耶(『夏目漱石「夢十夜 第一夜」/花咲か爺さん』)

父が水槽やら餌やらを買ってきて、姉と俺が二人で世話をしていた。でも、それもほんの短い間だった。金魚を飼い始めてまもなく、誰かが言った。あの金魚、小春ちゃんが彼氏にとってもらったんだって。それを聞いた俺は、こっそり金魚を水槽から掴み出し、庭の隅に穴を掘って、そこに埋めてしまった。穴に土を被せ、立ち上がると、目の前には貧相な木が立っていた。あのときを境に、いろいろな物が土に埋もれたままになった。雨上がりの庭で何かが泥にまみれてきらめくのが、時たま見えた。もう、そんなもの欲しいとは思わなかった。俺は大きく息を吸った。夜は深く冷え切って、物音一つしなかった。「悪かったとは思ってんだ。あのときは、他にどうしたらいいか分からなかった。目先の欲しいものに夢中で、自分が何をしているのか分かってなかったんだろうな。ちょうど今とは真逆で」俺は言葉を切った。炎に照らされて浮かび上がる骨壺は、ひどく遠くにあるように見えた。「本当は、今だって自分が何してるのかなんて、分かってないのかもしんないけど。でもやっぱり、姉さんまで地面の下に埋められることはないはずだ」俺は両手を伸ばして、骨壺を仏壇から下ろした。代わりに金魚の餌の缶を仏壇の真ん中に置いた。鈍く輝く容器は、ずっと前からそこにあったように静かにその場に収まった。

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