小説

『燃えかす』太田早耶(『夏目漱石「夢十夜 第一夜」/花咲か爺さん』)

数日後、姉は死んだ。通夜と葬式はつつがなく執り行われた。棺の中の姉は化粧をされて、生きていたときより血色よく見えた。桃色や黄色の浮ついた花に囲まれた姉を見るのは耐えがたく、火葬されて骨になって戻ってきたときはほっとした。神妙な顔つきをした人々が、長い箸を使って骨を丁寧に壺に収めていった。途中で葬儀場の係員が、骨が多く残っておいでですので、お身体をひとつの壺にまとめるために、少し崩してもよろしいでしょうか、と言った。父が頷くと、係員は白い棒で力強く骨を砕いていった。家の座敷に簡易式の仏壇が設置され、骨壺はその上に収まった。これから四十九日間、明かりを絶やさないようにするの、お姉ちゃんが極楽浄土に行けるように、と母は言って、また目元を押さえた。へえ、と俺は言った。

四十九日が過ぎる間、俺は大学のある街に戻り、何事もなかったかのように日常を過ごした。講義に出たり友達と飲んだり、バイトしたり女の子と寝たりした。俺は自分の生きるべき場所にすっぽり戻ってきた心地がすると同時に、まるで脳の皺が急に減ってしまったみたいに、頭に妙な空白があるように感じた。日々は生温く穏やかで、永続的な単調さがあった。だらだらと続く時間の向こうには、深く冷たい裂け目が見えた。四十九日の前日、夜遅くに帰省すると母が顔を出し、お姉ちゃんに挨拶しなさい、と言った。仏壇の前に行くと、蓮の花なんかの形をした照明が骨壺を皓々と照らし、蝋燭の炎が揺れていた。遺影の姉は、見慣れない微笑みを浮かべていた。仏壇の端には、あの缶がひっそり置いてあった。これが姉のもうひとつの願いだったのだろうか、とふと思った。これと一緒に埋めて欲しかったのかもしれない。こんな物と一緒に。俺は仏壇の前に座った。揺らめく光を見ていると、金魚を飼っていた時のことが思い出された。あれは俺が小学生で、姉が大学に入ってすぐの頃だ。どこかの祭りに行ってきた姉が、金魚を何匹か連れて帰ってきたのだ。

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