それらは打ち上げられた漂流物みたいに見えた。目の奥がちかちかして、俺は顔を背けた。視界の端で、細い指がそっと飴玉の包みに触れるのが見えた。その包み紙にも見覚えがあった。10年も前のものだ。当時この缶に入っていたのは、飴ではなく金魚の餌だった。「もう行くわ」俺は踵を返した。病室を出るとき少し振り返ると、姉は俯いて、呼吸を止めているように見えた。俺は言った。「別に、欲しいものなんてない」部屋を出て、病院の出口に向かって歩いているとき、こめかみが鈍く痛んだ。土の匂いと、何かを掘り当てる感覚が押し寄せた。これ欲しいの?じゃあ今から庭に埋めてくるから、探してごらん。上手く見つけられたら、君にあげるからね。そう言って姉は笑った。庭中を穴だらけにして、よく二人して母に叱られた。俺は姉の持っている物は、それが何かも分からないままに何でも欲しがったし、姉は何だってくれた。あるいは代わりに、俺の喜びそうな玩具やお菓子を用意した。そんなときもあったのだ。世の中は単純明快で、そこで生まれる自分の感情だって、明白で不変の法則に従って動いているのだと信じていたときが。