青年はY字の道を描く手を休めて考え込んだ。右の男も左の男も女も両方とも幸福だと言った。どちらも幸福なら、どちらに進んでも間違いがないような気がした。しかし青年はしっくりこなかった。迷っているというより、どちら側の言うことも信じられなかった。
海風を頬に感じていると、背中側から、両肩を同時に叩かれた。振り返るとそこには二人の男がいた。どうみても過去から来た青年自身のようだが、青年とは違うようでもあった。
右側の肩を叩いた男は日に焼け、筋骨隆々として逞しく、瞳は自信にあふれギラギラと輝いていた。
左側の肩を叩いた男は、色白で痩せていて貧弱なうえ、瞳は暗く濁っていた。
同じ一本道を歩いてきたはずなのに、ふたりとも同じ青年であり青年でなかった。
筋骨隆々とした男はイーゼル越しに青年の前に立つと自信たっぷりに語った。
「なあに、これまで幸せな人生を歩んできたじゃないか。これからだって、それは続いていくさ。右を選ぼうと、左を選ぼうと、そんなことは小さなことさ。どっちみち幸せになれるのなら、木の棒でも投げて決めたらいい。枝の先が向いた方に進めばいいだけだよ」