小説

『27の香水』Rin(『とおりゃんせ』(福岡))

「おはよ」
「おはよ〜」
寝室の扉を開けると浅煎り珈琲の爽やかな酸味がいっぱいに広がる11畳の部屋。
目の前に輝くはち切れんばかりの厚焼き卵が挟まれたサンドイッチ。
座る前に一口齧ると、隠し味のマスタードが鼻から抜け自然と涙が込み上げる。
「あー!俺も食べてないのに!」
むくれる彼の元へとすり足で駆け寄り後ろからくっつく。
「ごめんって」
「ん。まあ俺が作ったサンドイッチが美味しそうすぎるのが罪だもんな!」
「そうそう!」
「こら!笑」
笑いがころころと溢れる穏やかな朝。
「ひかり」
絡めていた腕を緩められ、正面を向いたと思えば大きな腕の中にすっぽりと収められる。
「誕生日おめでとう」
こちらを見下ろして微笑む彼に微笑み返す。
「ありがとう、こうちゃん」
珈琲の湯気が私たちを包む。
12月15日、大好きな、恋人ではない彼と迎える27年目の朝。

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