小説

『27の香水』Rin(『とおりゃんせ』(福岡))

彼と再会したのはちょうど1ヶ月前、黒服の人々を横目に、私は天神へと繰り出していた。
「明日は休んだら?」
連日立て続けに発生した重めの仕事で疲れ果てた私の顔を覗くやいなや、ギョッとする上司の顔は秀逸だった。
だが、甘い返しもできず、上司の言葉に頭を縦に振り、帰路に着いた次の瞬間にはベッドの中でどろどろに溶けた。
「6時」
日々の習慣というのは非常に恐ろしく、アラームなしでもいつもの時間に目が覚める。
しかし身体共に回復は目覚ましく、毛布に包まれながらスマホをいじる。
「起きるかあ〜!」
冷え切った部屋に体を震わせながら自分に魔法をかけていく。
「もう無くなりそうだな」
1ヶ月分もなさそうな香水をワンプッシュかけ、外へと飛び出す。
早朝から空いているカフェへと入り、読みそびれていた本を開く。
サイフォンで淹れた浅煎りの珈琲が飲みやすく、一緒に頼んだ卵サンドが進む。
「香水見に行ってみようかな」
読みかけの本を閉じ、卵サンドを口いっぱいに頬張りカフェを後にした。
百貨店が立ち並ぶ天神の十字路で信号を待つ間、後ろから声をかけられている気がした。
キャッチは無視と決めているため振り返りもせず青信号を確認し足を進めると、不意に腕を掴まれる。

1 2 3 4 5 6 7 8 9 10