小説

『27の香水』Rin(『とおりゃんせ』(福岡))

「な!」
文句を言ってやろうと振り返ると、こちらを気まずそうに見る顔に心臓がドクンとなる。
「こうちゃん?」
「さっきから名前呼んでるのになんで無視するのさ」
「あ、ああごめん。ワイヤレスイヤホン」
そう言って髪に隠れた耳からイヤホンを取る。
「あ、そりゃ仕方ない」
笑う彼と対照的に引き攣ったままの私は絞り出すように声を出す。
「よく、私ってわかったね」
「わかるよ〜、何年友達やってたと思ってんのさ笑」
「あ、そっか」
「どうした?10年ぶりに会って緊張してる?」
「そりゃするでしょ」
こうちゃんこと野津洸一は、幼馴染で、唯一の男友達だった。
幼稚園の送迎バスがいつも一緒だった、ただそれだけのきっかけで彼とは仲良くなった。
小学校も中学校もクラスも全て一緒で、いつも一緒、家族みたいなものだった。
それが高校に上がった途端、私たちは男女という世界へと巻き込まれた。
高身長で顔が整っている彼を狙う女子は数多く存在した。
偶然彼が告白されている現場を目撃したときは、心臓が抉られるようだった。
初めて彼を異性として意識した。しかし同時に、この気持ちは絶対に明かすまいと決めた。
私たちは友達、関係が崩れるくらいなら、偽り続けて一緒にいられる方がマシだと思った。
私は友達という面を被り、女友達として彼の近くに居続けた。

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