「らしいと言えば、らしいけど……。素直に鬼娘の幸せを喜んであげなさいよ」
「俺は、生意気で可愛くないガキだったんだ」
それは、自覚している。俺の声には、自嘲と反省が混じっていた。
「だが、今、ふと思ったんだ。鬼娘を救った影というのは、実は頼りになる友人のことだったんじゃないか――とな。真弓みたいな」
「航平くんや貴子より背の高い大木だもんね、私」
真弓が薄く苦笑する。その笑みには、嘆声と涙が隠れている。
航平より十センチも背が高い真弓。貴子さんには、身長差など障害でも何でもないと言いながら、鬼娘のように尻込みして悩んでいたのは、実は真弓の方だったんだ。
その上、航平の心と眼差しが誰に向かって注がれているのかを、真弓は最初から知っていた。
真弓より更に十センチも背の高い男が、たった今、彼女の目の前にいるというのに、真弓はその存在に一向に気付く様子がない。
真弓も航平と同じだな。武道家の一途さには困ったもんだ。
「おまえがいい奴だってことは、俺が誰よりよく知ってる。つらいことがあったら、その時は、遠慮なく俺に頼れよ? 俺は、おまえより大木だから」
「ありがとう」
それが婉曲的な告白だと気付いてくれたのか、気付いていないのか。真弓は少し寂しげに笑いながら頷いた。
まあ、九割九分、気付いていないんだろうな。
だが、俺も武道家の端くれ。どんな危機的状況にあっても、決して希望を捨てることなく、生き延びる道を必ず見い出すのが、武道家の生き方だ。
武道家は、勝って驕らず、負けて腐らず。常に次の攻撃に備えるんだ。