小説

『私と、あたしの手袋』ウダ・タマキ(『手ぶくろ』)

「もちろんですよ」
「あのぉ」
 妙に意気投合した二人とは対照的に、女性はどうすればいいのか困惑しているようだった。
「さぁ、寒いから気を付けて帰って下さい。お母さんが風邪引いたら大変ですから」
 優斗が半ば強引に女性の背中を押した。
「でも……」
「ほんと、大丈夫ですから」
「すみません、ありがとうございます」
 深々と頭を下げる女性の横で、おばあさんは「また会いましょうね」と青紫色に包まれた両手を愛らしく振った。
 手を繋いで歩く親子の後ろ姿を見送る私たちに、女性は何度も振り返っては頭を下げた。
「ごめんなさい。いろいろあって」
 私は優斗の横顔を見上げた。
「俺のばあちゃんも認知症だったからさ。なんとなく雰囲気で察したんだ」
 優斗の勘が鋭いのは間違いなかった。
「でも、せっかくのプレゼントなのに」
「また買えばいいじゃん」
 優斗が私の頭をポンと叩いた。
 強く打っていた心臓が今度はキュンとした。
「リカは優しいな」
 私は黙ったまま優斗の手を握りしめた。
「寒かったろ? ラーメンでも食べに行こうか」
「うん!」
 歩き始めた私たちの目の前に、羽毛のような白い雪がひらひらと舞い降りた。
「優斗! 雪!」
「もしかしたら、今年はホワイトクリスマスになるかもしれないなぁ」
 優斗は夜空を見上げた。
 今朝の天気予報で今夜は寒くなると気象予報士が言っていたとおりだ。手袋は無いけれど、優斗の手の温もりがあれば私には十分だった。

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