小説

『私と、あたしの手袋』ウダ・タマキ(『手ぶくろ』)

 おばあさんは私と話しながらも周囲の様子を窺い、気もそぞろのようだ。
「あのぉ、すみません。つかぬことをお聞きしますが、その手袋、この辺りで拾われました?」
「手袋? これですか?」
「ええ。それ、私のなんです。昨日の夜、落としちゃって探してたんです」
「何言ってんのよ。これはあたしの手袋よ!」
 おばあさんの表情が一変した。その強い口調に私は思わず仰け反った。
「最近の若い子は恐ろしいね。いきなり人の手袋を盗もうなんて」
「ん?」
 あたし(・・・)の手袋は、私(・)の手袋のはずなのに-
「でも、それは……」
「でもじゃないわよ」
 あてなく探すのも気が滅入るが、自分のものだと思い込んでいる人から奪還するのはより気が重い。
 これ以上は何を言っても無駄だと思い「寒いから気を付けて下さいね」と温かい言葉をかけて別れた。
「ありがとね」
 別れ際に微笑みを返したおばあさんが、私にはさっぱり理解できなかった。
 さぁ、どうするよ。今週末のクリスマスは優斗とデートの予定だというのに。
 優斗の勘はずば抜けて鋭い。観察力に優れていて、普段から気遣いや心配りがきめ細かいのは良いところなのだが、それは些細な変化や嘘にも敏感だということ。手袋を無くしたことなど、いくら私が取り繕っても優斗ならきっと察するだろう。
 私は片方だけ残された手袋をジッと眺めて思案した。が、名案を思いつかぬままやはり眠りに落ちた。

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