D坂は閑静な住宅街にほど近いエリアで、都心にありながら緑も多く、趣向を凝らした飲食店が至るところに散見される。瀬田祐介は星付きホテルのシェフとして経験を積んだのち独立し、このD坂エリアに念願の自分の店を持つ運びとなった。
祝いの花が並ぶ開店間もないころ、もう十年以上も会っていなかった友人の峰岸圭太がラストオーダー間際に花を抱えて来客した。
「祐介、おめでとう。雑誌でみかけてびっくりしたよ。」
「峰岸?何年振りだ?すぐ切り上げるから、ゆっくりしていってくれよ。」
残りの仕事を従業員にまかせ、祐介は峰岸のテーブルにつき店のワインを空けながら延々と語り合った。
「実はな、祐介。お前が店を持つって教えてくれたの高木なんだよ。」
「高木・・・、高木真由美か?」
「ああ。お前FBやってるか?FBのダイレクトメッセージで急に連絡がきたんだ。」
「いや。店の広告としてやった方がいいかな、なんて考えてるけどな。・・・お前、高木と仲良かったか?」
「あ、いや。急になんだ。それまでもFBでつながってたわけじゃない。」
「随分と前に、イギリスの方で暮らしてるらしいって聞いたけどな。」
「そうそう。なんでも、一時帰国するらしいんだ。そのとき小規模でも中学のときの同窓会しようって。お前の店でやりたいから下見しといてってな。」
高木真由美はスクールカーストの頂点にいた。さらに頭脳明晰、容姿端麗。まるで作り話のような存在に皆、羨望のまなざしを向けていた。
祐介は中二の冬に彼女にとった行動を思い出していた。その思い出は無声映画のように音声が抜けているのであった。