小説

『私と、あたしの手袋』ウダ・タマキ(『手ぶくろ』)

 女性の言葉は私の胸に深く突き刺さった。もし、この手袋をおばあさんがこのまま受け取って幸せならば、それも良いんじゃないかと思った。いや、ダメだ。優斗に何て説明すればいい? 
「お母さん、その手袋」
 女性が手袋に手を伸ばそうとした時だった。
「おーい、リカ!」
 声のする方を振り返ると、そこには優斗の姿があった。おばあさんが私より早く「はぁい!」と応えた。
「え?」
 優斗が手を振りながらにこちらへ駆けてくる。
「なんで? どうしたの?」
「驚かせようと思ってさ。サプライズってやつよ」
「あら、あなたの彼氏? あたしの名前を呼ぶからてっきり」
「おばあさん、リカって名前なんですか?」
「ええ、そうよ。あなたも?」
「はい、私もリカです」
「あれ? その手袋」
 優斗の反応は当然だった。私にプレゼントしたはずの手袋を見ず知らずのおばあさんがはめているのだから。
「これね、夫があたしにプレゼントしてくれたのよ」
 おばあさんは誇らしげだった。
「ちょっと、お母さん!」
 まずい状況になった-
 私は申し訳なさそうに優斗の顔を覗き込んだ。「どういうこと?」って、険しい顔を向けられるんじゃないかと私の心臓は強く打ち始めた。
「へぇ! リカさん、よく似合ってますよ!」
 その目尻にシワを浮かべて笑う優斗の顔が私は好き。って、見惚れている場合じゃない。私は優斗の言葉に耳を疑った。
「すみません、すみません。ちょっと、お母さんてば」
 しきりに謝る女性に優斗がウィンクするのが見えた。「僕に任せて下さい」と言わんばかりの合図だった。
「センスがいい旦那さんですねー」
「そうなのよ。そう思うあなたもセンスがいいわね」
「ありがとうございます」
「彼女と仲良くしなさいよ。素敵な女性じゃないの」
 おばあさんは優斗にこっそりと伝えたつもりだろうが、はっきりと私の耳に届いた。

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